家電量販店でエアコンの値札を見ると、大きく「おもに6畳」と書かれた下に、小さく「畳数のめやす 6〜9畳」と添えてあることがある。自分の部屋が7畳や8畳なら、6を信じるべきか9を信じるべきかで買う機種が変わりかねない。6も9もでたらめな数字ではない。6は断熱性能の低い木造の家、9は断熱性能の高い鉄筋のマンションを想定して計算された数字だ。この2つの数字がそれぞれ何を根拠にしているのかを確かめれば、自分の部屋にはどちらを当てはめればいいかも見えてくる。
なぜ数字が2つ並んでいるか
エアコンのカタログや量販店の値札には、「おもに畳数」と「畳数のめやす」という似た名前の表示が並んでいることが多い。資源エネルギー庁の資料によると、そもそもこの畳数表示自体、法律で義務づけられたものではなく、業界や各社の自主的な取り組みとして続けられている。
その中でも2つの表示は出どころが違う。「おもに畳数」には具体的な規格がなく、メーカーごとの判断で記載されているものの、各社ともおおむね近い値になっている。一方の「畳数のめやす」は、(一社)日本電機工業会が定めた規格「JEM-1447」にもとづく。冷房・暖房それぞれの定格能力ごとに、畳数の最小値・最大値の幅を規定したものだ。
つまり「おもに6畳」は各社が共通して選ぶ代表値、「6〜9畳」はその代表値を含む公式な幅ということになる。代表値だけを見ていると、自分の部屋がその幅の中でどこに位置するのかまでは分からない。幅の6と9は、それぞれ何を計算して出てきた数字なのだろうか。
幅の上下は別の建物の数字
幅の6と9は、それぞれ何を計算した結果なのか。答えを先に、実在する製品で確かめる。パナソニックの2026年モデル「エオリア」Jシリーズに、冷房能力2.2kWの壁掛けエアコン「CS-226DJR」がある。その公式仕様ページには、冷房の畳数の目安として「6〜9畳(10〜15平方メートル)」とある。この6〜9畳という幅は、2021年に資源エネルギー庁の審議会が示した「2.2kW=6〜9畳」という対応表の数字と、5年以上経った今もそのまま一致している。
その対応表のもとになっているのが、日本電機工業会の規格JEM-1447の条文だ。資源エネルギー庁の資料はこの条文を「製品の冷暖房面積を範囲で表示する場合は、表1に示す鉄筋集合住宅中間層南向き洋間の単位床面積当たりの冷暖房負荷数値を最大冷暖房面積値とし、一戸建木造平屋南向き和室の単位床面積当たりの冷暖房負荷の数値を最小冷暖房面積値として、その範囲を冷暖房面積の目安とする」と引用している。かみ砕くと、9畳側は「鉄筋のマンション、中間階、南向きの洋室」、6畳側は「木造の平屋一戸建て、南向きの和室」という、まったく別の2つの建物を想定した数字になる。
幅の上下は建物の断熱性能の違いであって、このエアコン自体の実力である2.2kWという能力は、6畳側でも9畳側でも変わらない。断熱性能の高い建物なら、同じ2.2kWでより広い部屋を冷やしきれるというだけのことだ。
この幅の付き方は、能力が変わっても同じ比率で現れる。
同じ資源エネルギー庁の資料にある対応表を能力ごとに並べると、2.2kWから5.6kWまで能力が2.5倍以上に上がっても、上限はどの能力でも下限のおよそ1.5倍で揃う。畳数の幅は、同じ能力を「木造の家の1畳あたりに必要な熱量」で割るか「鉄筋の家の1畳あたりに必要な熱量」で割るかで決まる。2つの建物の熱量の比が能力によらず一定なら、畳数の比もエアコンの大きさによらず一定になる。断熱性能の差がもたらす「対応できる広さの差」は、能力が上がっても縮まらない。では、6畳側が想定する木造の家は、いつの時代のどんな断熱性能を前提にしているのか。
基準はいつの家を想定するか
幅の下限、つまり「6畳側」の木造平屋がどれほど断熱性能の低い家なのかを確かめて、少し手が止まった。
1965年。
資料によれば、畳数のめやすが引用する冷房負荷の数値は、この年に制定された「HASS 109-1965」という計算方法にもとづいている。そしてこの計算方法自体が、昭和55(1980)年の建築基準にすら満たない無断熱の住宅を想定している。「木造は鉄筋より広めの数字になる」という程度に思っていたが、その木造側の想定が、今の建築基準の一世代前どころか、一番古い基準にすら届いていない家だったとは予想していなかった。
その間に、住宅の断熱性能を測る基準は何度も引き上げられている。
| 基準年 | 外皮の熱性能 |
|---|---|
| 昭和55(1980)年基準 | Q値≦5.2W/m²K |
| 平成4(1992)年基準 | Q値≦4.2W/m²K |
| 平成11(1999)年基準 | Q値≦2.7W/m²K |
| 平成25(2013)年基準 | UA値≦0.87W/m²K |
Q値・UA値はいずれも建物からどれだけ熱が逃げやすいかを示す数値で、小さいほど断熱性能が高い。資料の図によれば、この間に基準は段階的に厳しくなっている。それでも、畳数のめやすの計算方法自体はこの4回の改定を経ても更新されず、1965年の想定のままになっている。
では、実際の住宅はどの基準に当てはまっているのか。資料が示す平成29(2017)年度の住宅ストック約5,000万戸の内訳は次のとおりだ。
- 現行基準(平成28年省エネ基準)を満たすもの: 10%
- 平成4(1992)年基準: 22%
- 昭和55(1980)年基準: 36%
- 昭和55年基準にも満たないもの(無断熱等): 32%
畳数のめやすの下限が想定する「無断熱」の家は、この最後の32%にほぼ重なる。つまり日本の住宅の3割強は今も、畳数のめやすの一番厳しい側の数字がそのまま当てはまる家に住んでいる。現行基準を満たす家はまだ10%で、上限側(鉄筋集合住宅、断熱性能が高い側)に近い暮らし方をしている人は、まだ少数派になる。では、自分の部屋はこの幅のどちら側に近いのだろうか。
自分の家はどちらに近いか
自分の部屋がどちらに近いかは、建物の構造と築年数から見分けられる。鉄筋コンクリート造の集合住宅で、しかも最上階ではなく中間階の部屋なら、上限側の数字を信じてよい可能性が高い。木造の戸建てで、とくに昭和55(1980)年より前に建てられ断熱改修もしていない家なら、下限側を目安にするのが安全になる。
同じ「鉄筋集合住宅」でも、階数までは見ておきたい。JEM-1447が上限の根拠にしているのは「中間層」の部屋であって、最上階ではない。資料のグラフによれば、旧基準(HASS 109-1965)の冷房負荷は集合住宅の最上階で約185W/m²、中間階で145W/m²とされ、最上階のほうが3割近く高い。屋根からの熱が加わるためで、同じ鉄筋のマンションでも最上階の部屋は上限側の数字をそのまま信じないほうがよい。
もう一つ、留めておきたい条件がある。畳数のめやすの上限・下限は、どちらも「南向き」を計算の前提にしている。資料のグラフでは、木造住宅の冷房負荷が南向きの和室で220W/m²であるのに対し、西向きの洋室では約235W/m²とやや高い。自分の部屋が西向きや東向きなら、畳数のめやすの数字よりも実際の負荷はやや上振れする余地があると考えたほうがよい。
まとめ
エアコンのカタログにある「畳数のめやす」の幅は、あいまいな安全マージンではない。無断熱に近い木造平屋(下限)と、断熱性能の高い鉄筋集合住宅の中間階(上限)という、断熱性能が異なる2つの建物を計算した結果だ。幅の上下はエアコン自体の実力ではなく建物の断熱性能の違いを表しており、自分の家が鉄筋か木造か、断熱改修済みかどうかで信じるべき側が決まる。木造の戸建てで築年数が古いなら下限側を、断熱性能の高い集合住宅の中間階なら上限側を目安にする。最上階や西向き・東向きの部屋では、さらに少し余裕を見ておくと、表示と実感のずれを減らせる。
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