自治体や不動産会社のサイトで、街の建物をぐりぐり回しながら3Dで見せたい、と思ったことはないだろうか。国土交通省が全国の建物を1棟単位で3D化して無料公開している「PLATEAU(プラトー)」というデータを使えば、それ自体はできる。ただ、詳しいデータほど重く、ブラウザでさらさら動かすのは簡単ではない。
Geoloniaが2026年11月9日に公開するWeb地図ライブラリ「MachGL」は、ここに新しい選択肢を加える。ライブラリ本体はわずか98KB(gzip後)しかない。PLATEAUの建物データを、東京都全域ぶんでも100MB未満に抑えて直接描画できるという(Geolonia公式発表、2026-10-21)。今、PLATEAUのデータを3Dで動かす仕組みと比べると、何がどれだけ変わるのか。
重い定番ライブラリ
国交省は、PLATEAUのデータを3Dで見るための公式ビューア「PLATEAU VIEW」を提供している。これは、Eukaryaの「Re:Earth」というWebGISの仕組みの上に作られている。Re:Earthは「CesiumJS」という3D地図ライブラリを使っている(Cesium公式ブログ、国交省PLATEAU公式サイト)。「PLATEAUを3Dで見る」の裏側では、CesiumJSが標準的な選択肢になっている。
このCesiumJSは、本体だけでgzip後1,323KBある(bundlephobia、v1.146.0)。もう一つの代表的な選択肢であるMapLibre GL JSも289KBある(bundlephobia、v6.16.0)。では、新しく登場したMachGLは、これらと比べてどれくらい違うのか。
ケタ違いの軽さ
MachGLの本体サイズは98KB(gzip後)だ。CesiumJS・MapLibre GL JSと並べると、この数字の意味がはっきりする。
CesiumJSの約13分の1、MapLibre GL JSと比べても3分の1弱にあたる。自分は「地図ライブラリ」と聞くと、真っ先にCesiumのような大がかりな仕組みを思い浮かべる。だから98KBという数字を最初に見たとき、一桁読み違えたかと思って発表を読み直した。ただしMachGLの98KBはGeolonia自身が発表した数値だ。CesiumJS・MapLibre GL JSの数値は、bundlephobiaという第三者ツールでの計測値になる。minifyの方法まで完全に同じ条件かは確認できていないが、一桁近く軽いという差は揺るがない。
この軽さの差が意味を持つのは、スマートフォンの回線のように最初の読み込みが遅いと利用者に途中で離脱されやすい場面だ。重いライブラリを読み込んでから地図を描き始めるのと、98KBで描き始められるのとでは、ページが動き出すまでの体感が変わる。では、なぜここまで軽くできたのか。
軽くした3つの工夫
Geolonia代表取締役CEOの宮内隆行氏と開発者の樋口紗月氏は、PLATEAUのような高精細データが普及する中で、軽快に動く地図ライブラリの必要性を感じていたと話す。社内エンジニアの高速化のアイデアと、タイルを縮める案が議論から生まれ、開発が始まったという(Internet Watch)。
同じ取材で、2人は軽さの工夫を3つ挙げている。
- ズームレベルごとに座標データを最適化する
- データをオリジナルのバイナリ形式に変換して配信する(一般的なテキスト形式のJSONのまま送らない)
- 建物名などのメタデータの持ち方を工夫する
この3つを積み重ねた結果が、「東京都全域の3D都市モデルのデータ量を100MB未満に抑える」という数字になる(Internet Watch)。圧縮前の元データが何倍あったかは発表されていないが、東京都全域の建物形状を100MB未満にまとめた、という結果は数字で示されている。
建物の3Dデータは、ざっくりした箱型から、屋根や窓まで再現した精密な形まで、精細さに段階がある。PLATEAUはこの段階を「LOD(詳細度)」と呼ぶ。MachGLは、LOD1(平面形を高さまで立ち上げたモデル)からLOD3(窓や庇などの細部まで再現したモデル)まで、そのまま描画できる(Geolonia公式発表)。詳しいデータほど重くなりやすいが、MachGLはその変換をライブラリ側で引き受けている。
デモで触れる3D地図
実際の操作感は、公開されているデモで確かめられる(MachGLデモページ)。地図を細かい区画に分けて配信する「ベクトルタイル」形式のデータをWebGL2で描画し、ドラッグ・ズーム・回転・傾けの操作に対応する。タイルやGeoJSONの解析、建物の形を組み立てる処理は、Web Worker(画面の描画を止めずに裏側で動く処理)に任せている。そのため、操作中に画面がカクつきにくい。
デモは東京都心部に限って3D都市モデルを表示し、「ツアー」ボタンを押すと東京タワーや東京都庁などを自動で巡回する。操作は「Space」キーで前進、矢印キーで傾きと回転という説明がページに出ている。
3D表示以外にも、MachGLは次の機能に対応する(Geolonia公式発表)。
- GeoJSONの読み込み
- クラスタリング
- ヒートマップ
- 画像・動画の重ね合わせ
- HTMLマーカー
3D表示では、建物の立体表示に加え、地形の起伏と陰影、遠くの地平線をかすませる表現も扱える。店舗案内や観光マップのような、2Dのベクトルタイル地図で使う機能も一通りそろっている。
使うために必要なもの
MachGLは2026年11月9日からCDNで配布される。利用にはGeoloniaの無料アカウント登録とAPIキーが必要になる。キーがあれば、Geoloniaの地図デザインを名前で指定するだけでMachGLに表示できる(Geolonia公式発表)。
ここで1つ留保しておきたい条件がある。アカウント登録自体は無料だが、地図の表示はAPIアクセスや表示回数に応じた従量課金制だ。具体的な料金は問い合わせベースになっている(Geolonia Maps公式ページ)。無料で試せる範囲がどこまでかは、現時点の公開情報だけでは分からない。
既存のGeolonia MapsはMapLibre GL JSを土台にしてきたが、Geoloniaは当面MachGL版とMapLibre版を並行提供するとしている。MapLibre版を廃止する予定はなく、料金も従来どおりという(Internet Watch)。今使っている開発者が、公開日にすぐ乗り換えを迫られるわけではない。
想定用途として、モバイル向けWebサービス、コーポレートサイトや店舗案内への地図埋め込み、都市・不動産情報を3Dで見せるサイトが挙がっている(Geolonia公式発表)。冒頭に挙げた「街の建物を3Dで見せたい」という場面は、この想定用途にそのまま重なる。
まとめ
Geoloniaの新ライブラリ「MachGL」は、本体98KB(gzip後)で、CesiumJSの約13分の1の軽さだ。PLATEAUの3D建物データを、LOD1からLOD3までそのまま描画できる。ズームレベルごとの座標最適化・独自バイナリ形式・メタデータの工夫を重ね、東京都全域ぶんの建物データでも100MB未満に収めた。2026年11月9日にCDNで提供が始まり、無料のアカウント登録とAPIキーで試せる。地図の表示自体は従量課金で具体的な料金は問い合わせが必要だが、既存のMapLibre版ユーザーは、同じ料金のままMachGLへ乗り換えられる。
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