「念のため」とリカバリー用のUSBメモリを作って引き出しにしまっている人は多いはずだ。Windowsが起動しなくなったとき、そのUSBメモリがないと直せないと思っていないだろうか。Windows 11の25H2・26H2に2026年10月、USBメモリなしで直せる「クラウドの再構築(Cloud Rebuild)」が配信され始めた(Microsoft Learn)。起動すらしないPCでも、ネットに繋がる環境さえあれば、OSとドライバーを丸ごと取り直して復旧できる。なぜ起動しないPCがネットから何かを取ってこられるのか、そして今すぐ自分のPCで使えるのかを確かめた。
起動しないPCも直せる
クラウドの再構築は、ターゲットとなるWindowsのイメージとデバイスのドライバーを、Windows Updateからダウンロードする機能だ。両方を取り直すことで、PC全体をクリーンな状態に再インストールする(Microsoft Learn)。USBメディアもカスタムイメージも使わない。
開始方法は3つある(Microsoft Learn)。
- 手元のPCから自分で始める。「設定」の「システム」>「回復」にある「PCを再構築」を選ぶ
- Windowsが起動できないとき、表示されるWinREのトラブルシューティング画面から選ぶ
- 企業が管理するPCで、IT管理者がRecovery CSPという仕組みを通じてリモートで開始する
再構築が完了すると、PCは初めて電源を入れたときと同じセットアップ画面(OOBE)を表示する。会社が管理しているPCなら話が別だ。Windows AutopilotやMicrosoft Intuneを通じて自動的に再設定され、OneDriveに保存していたファイルも使えるようになる(Microsoft Learn)。
ここまで読むと、「Windowsが起動できないのに、どうやってネットに繋がって何かをダウンロードできるのか」という疑問が浮かぶ。
なぜネットに繋がるのか
PCが起動しなくなったとき、青い画面で「自動修復」や「トラブルシューティング」と表示されるのを見た経験がある人は多いはずだ。あの画面の正体は、Windows回復環境(WinRE)と呼ばれる、Windows本体とは別に用意された小さな環境になる。壊れているのはWindows本体であって、WinREはその外側にあるので壊れていない。
今回の変更で重要なのは、このWinREがインターネットに接続できるようになった点だ。前提として、PCの製造元がWinREに互換性のあるネットワークドライバーを含めている必要がある(Microsoft Learn)。この最低限のネットワーク接続さえ確保できれば、あとはWinREからWindows Updateへアクセスし、起動に必要なOSの本体とドライバーをまるごと取り直せる。
つまりクラウドの再構築は、「Windows本体を直すために、Windows本体の外側にある別の環境がネットから材料を取ってくる」という仕組みだ。壊れた部屋の中からではなく、廊下から新しい部品を運び込んでくるイメージに近い。
初期状態に戻すとの違い
Windows 11には以前から「このPCを初期状態に戻す」という機能があり、こちらにもクラウドからダウンロードする選択肢がある(Microsoftサポート)。似た機能に見えるが、Microsoft Learnの文書はクラウドの再構築をこの既存機能と明確に対比している。
| 初期状態に戻す(クラウドダウンロード) | クラウドの再構築 | |
|---|---|---|
| ダウンロードする内容 | Windowsのイメージ | Windowsのイメージとデバイスドライバーの両方 |
| インストール済みOSへの依存 | 依存する | 依存しない |
| USBメディア・カスタムイメージ | 不要 | 不要 |
違いの核心は、インストール済みOSへの依存の有無にある。クラウドの再構築はOSの整合性に依存しないため、起動すら失敗する壊れ方をしたPCでも使える(Microsoft Learn)。自分は当初、クラウドの再構築を「初期状態に戻す機能のクラウド版」程度だろうと予想していた。実際は、既存の機能が前提にしていた「インストール済みOSがある程度動いていること」自体を取り払った、別物の復旧経路だった。
譲渡前にも使えるデータ消去
クラウドの再構築を始めるとき、ファイルの消し方を2段階から選べる(Microsoft Learn)。
- ファイルを削除: 速いが、専用の回復ツールを使うとデータを復元できる可能性が残る
- ファイルを削除&サニタイズ: ストレージハードウェアが持つ消去機能でデータを安全に消し去ってから、Windowsを再インストールする。元に戻せない処理
このデータサニタイズは、PCを譲渡・返却・処分する前に使うための選択肢になる。Windowsを再インストールする必要がなければ、WinRE上で動くコマンドラインツールDataSanitization.exeで、データ消去だけを単独で実行することもできる。ただしこの場合、Windowsは再インストールされないままになる。あとで自分で入れ直す必要がある(Microsoft Learn)。
消去の結果は、PCのストレージハードウェアが持つ消去機能の実装しだいで変わる。Microsoftの文書も、Windowsは消去操作を要求しストレージデバイスから返された結果を報告するが、その実行自体を独自に検証することはできないと明記している(Microsoft Learn)。廃棄や譲渡に法令上の義務が関わる場合は、ストレージがこの機能に対応しているかをPCの製造元に確認したほうがよい。
いつ使えるか
クラウドの再構築とデータサニタイズは、2026年10月に配信された非セキュリティ更新KB5127936に含まれる(Microsoftサポート)。対象はWindows 11 version 26H2・25H2の全エディションだ。Windows Updateの「オプションの更新」から、またはMicrosoft Updateカタログからインストールできる。
配信は「段階的な展開」のあとに「通常の展開」へ進む2段階になっており、同じバージョンのPCでも届くタイミングには差がある(Microsoftサポート)。なお24H2は2026年10月以降、この種の非セキュリティのプレビュー更新を受け取らなくなる。今回の機能の対象には含まれない(Microsoftサポート)。
ここで見落としやすいのが、ネット接続が前提条件のままだという点だ。WinRE環境でサポートされる接続は、有線のイーサネットか、WPA2-Personalの無線のみになる(Microsoft Learn)。企業のWPA2-Enterprise環境や、そもそもネットに繋がらない場所でPCが壊れた場合は、クラウドの再構築も使えない。USBメモリや従来のインストールメディアが要らなくなるのは、ネットに繋がる状況に限られる。Windows 11の最小ハードウェア要件(TPMなど)を満たさない機種も対象外だ。
実際に試して失敗した場合、画面に表示されるエラーコードで原因を絞り込める(Microsoft Learn)。
0x800704C6: ネットワークに接続できていない0xc1900200: TPM未有効など、Windows 11のハードウェア要件を満たしていない0xc1900224: 必要なドライバーがWindows Updateに見つからない
まとめ
Windows 11の25H2・26H2では、2026年10月の更新により、USBメモリやインストール済みOSの健全性に依存しない復旧手段「クラウドの再構築」が使えるようになった。可能にしているのは、Windows本体とは別に用意されたWinREがネットワークドライバーを持ち、そこからWindows Updateへ直接アクセスできるようになった点だ。初期状態に戻す機能と違い、起動すら失敗するPCでも使える。
PCを譲渡・処分する前には、ストレージの消去機能を使ったデータサニタイズも同じ流れの中で選べる。ただしネット接続とWindows 11の最小要件は変わらず必要で、配信は段階的なため、すぐに全員が使えるとは限らない。
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