技術ブログを読んでいて、「地味に効きます」「静かに壊れる」のような言い回しに、前より出会う気がすることはないだろうか。太字と箇条書きも心なしか多い。ただの気のせいかもしれないし、生成AIが書いた(書かせた)文章が増えたせいかもしれない。
その体感を、個人ブログが実際に数えて確かめていた。対象は2019年から2026年までの各年8月にQiitaへ投稿された記事だ。合計70,524件をQiita APIで取得し、50,731件を分析した逆瀬川ちゃんの調査になる。結果を先に言うと、2026年の記事は長くなり、太字と箇条書きが増え、「実測」「効く」のような語彙が広がっていた。一方で「〜しましょう」のような呼びかけ口調は落ち着き、文体は統一される方向に動いていた。
英語圏では、似た調査がすでにいくつかある。この記事が紹介しているものでは、論文の要旨にAIっぽい語が増えた分を数えて、2024年の要旨の少なくとも13.5%がLLMで処理されたと推定した研究がある。日本語の技術記事を同じように数えた分析は、これまで見当たらなかったという。記事の何がどう変わったのかを、骨組み・口調・語彙の順に見ていく。
記事の骨格は予測値を超えて伸びた
記事の骨組みは、具体的にどれくらい変わったのか。この調査は、2022年11月のChatGPT公開より前の2019〜2022年を「AI以前」とする。その4年間の伸び方をそのまま延ばした「予測値」(AIがなかったとしたら2026年はこうなっていたはずという仮想の値)を作り、実際の2026年の値と比べる設計だ。AI以前から続いていた伸びの分は、差し引いたうえで見ていることになる。
その結果、記事の骨格に関わる指標は、予測値を大きく超えて伸びていた。
| 指標 | AI以前の平均 | 予測値 | 2026年 | 変化 |
|---|---|---|---|---|
| 地の文の文字数 | 976字 | 994字 | 1,914字 | 約2.0倍 |
| 太字(1,000字あたり) | 1.26個 | 1.27個 | 3.83個 | 約3.0倍 |
| 箇条書きの割合 | 8.9% | 8.0% | 16.4% | 約1.8倍 |
| 平均文長 | 35.4字 | 38.9字 | 39.2字 | 予測値並み |
コードや表を除いた文章部分(「地の文」と呼ばれる)の文字数、太字の頻度、箇条書きの割合は、いずれも予測値を大きく上回って増えている。1文の長さも35.4字から39.2字に伸びていたが、予測値も38.9字とほぼ同じで、AI以前から続いていた傾向の延長にあたる。では、口調のほうはどうか。
呼びかけ口調は落ち着いた
記事が長く、太字と箇条書きが多くなったのなら、「〜しましょう」のような呼びかけ口調も増えていそうなものだ。生成AIが書く文章の特徴として、真っ先に名前が挙がる言い回しでもある。自分もそう思って表を見たので、数字が逆向きに動いていたのは意外だった。
| 指標(1,000字あたり) | AI以前 | 2026年 |
|---|---|---|
| 文末の「しましょう」 | 0.114個 | 0.034個 |
| 感嘆符 | 0.93個 | 0.29個 |
| 文頭の「また、」 | 0.207個 | 0.119個 |
「しましょう」を含む記事の割合も10.3%から6.0%に下がっている。です・ます調とだ・である調が混ざった記事の割合は48%から31%に下がり、文体が統一される方向に動いていた。「AIっぽい」の目印としてよく挙がる口調は、2026年の記事ではむしろ控えめになっていた。
基準線の1.0倍から右に伸びる棒(地の文・太字・箇条書き)と、左に縮む棒(しましょう・感嘆符)が同時に存在する。「AIっぽくなった」という変化には、増えた要素と減った要素が混ざっている(逆瀬川ちゃんの調査の実測値をもとに作成)。
増えたのは比喩的に説明する語彙
口調の代わりに増えたのが語彙だ。AI以前は0.5%以下の記事にしか出てこなかったのに、2026年には著者単位で見ても明らかに広がった語が385語見つかっている。
| 語 | AI以前 | 2026年 | よく見る言い回し |
|---|---|---|---|
| 実測 | 0.1% | 7.2% | 実測では、〜の実測値 |
| 既定 | 0.5% | 7.1% | 既定では、〜は既定で |
| 入口 | 0.4% | 6.8% | 〜の入口として |
| 事故 | 0.3% | 6.8% | 〜という事故、事故を防ぐ |
| 効く | 2.0% | 22.3% | 〜が効いてくる、地味に効きます |
多いものは含む記事の20%を超えるまで広がっている。この増加が、言い換えなのか単に足されたのかも調べられていた。「既定」が増えたなら「デフォルト」は減ったのか、というのが最初の疑問だ。1万字あたりの頻度で確かめたところ、「デフォルト」は1.88回から1.01回に減り、「既定」は0.05回から0.55回に増えていた。一部は置き換わったとみてよさそうだ。ところが「要点」(0.03回→0.14回)と「ポイント」(1.31回→2.05回)は、どちらも増えている。こちらは、新しい語が古い語を押しのけずに足された例になる。
呼びかけの口調や感嘆符のような「話し方」は落ち着いた一方、既定・入口・事故・効くのような、物事を比喩的に説明する語彙は広がっていた。文体は大人しくなり、語彙は増える。この2つが同時に起きていたのが、2026年のQiitaの記事だった。
記号にも変化がある。ダッシュ「—」「―」は1,000字あたり0.04個から0.43個へおよそ10倍に増えた。逆瀬川ちゃんの記事は、英語圏でChatGPTのダッシュ(em dash)多用が「ChatGPT hyphen」と話題になったことがある、と触れている。日本語の技術記事でも、同じ記号が目立って増えていたことになる。見出しに「まとめ」がある記事の割合も12%から52%へ、半数を超えるまで増えていた。
コーディングエージェントの記事も増加
この分析は、AIが書いた文章そのものが増えたのか、人間の書き方がAIの影響で変わったのかまでは区別していない。AI関連のタグが付いた記事を除いても、結果はほとんど変わらなかったという。
変化と並んで動いている数字もある。コーディングエージェント(ClaudeCode、Codex、Cursorなど)のタグが付いた記事は、2025年8月の3.1%から2026年8月には9.5%に増えている。コードだけでなく、記事を書く作業自体にエージェントが関わる機会が増えたことと、この変化はつながっていそうだ。
まとめ
Qiitaの技術記事を8年分数えた逆瀬川ちゃんの分析によると、2026年の記事は地の文の長さがおよそ2倍、太字がおよそ3倍、箇条書きの割合がおよそ1.8倍に増えていた。「実測」「既定」「入口」「効く」のような、物事を比喩的に説明する語彙も広がり、「効く」は22.3%の記事に登場する。一方で「〜しましょう」口調や感嘆符は減り、文体は統一される方向に動いていた。「AIっぽさ」は口調よりも、語彙や記事の組み立てに表れている。日本語の技術記事を数えて見えてきたのは、そういう姿だ。
コメント
気づきや感想をどうぞ記事への補足や、読んで考えたことをお寄せください。個人情報や、他の人を傷つける内容の投稿はお控えください。
投稿にはGoogleログインが必要です。
Googleでログイン投稿にはGoogleアカウントの表示名が公開されます。メールアドレスは取得・公開しません。
コメントを読み込んでいます…