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AI専用PCが元を取れる年数を自分の数字で計算できる

ローカルでAIを動かす機材が何年で元を取れるか、計算式とデータを公開したツールで確認できるようになった。実例では数十年から千年単位までばらつき、鍵はハードウェアの速さよりモデルの単価にあった。

白いデスクに置かれたMac StudioとノートPC、モニターとキーボード

イメージ写真 記事の内容を撮影したものではありません。Photo by Tranmautritam on Pexels

コーディングエージェントの月額請求書を見て、「このお金でAI専用のPCを買えば、そのうち元が取れるのでは」と考えたことはないだろうか。2026年8月25日、Appleは新型Mac Studio(M5 Max・M5 Ultra搭載)を発表し、9月22日から出荷が始まる。Apple公式の発表は「AI性能が最大4.3倍」を謳っており、注文ボタンの前で迷った人もいるはずだ。

その損得は、これまで自分で機材の価格・電気代・モデルの速度を調べて計算するしかなかった。今は、計算式とデータをすべて公開した無料のツール「Sunk Cost」を使えば、自分の使用量を入れるだけで答えが出る。実際に数字を当てはめると、答えは数十年から千年単位までばらついた。

損益分岐点はこう決まる

このツールが答えるのは、「クラウドAPIに払い続ける代わりに機材を買ったら、何日でその機材代を回収できるか」という問いだ。考え方は単純で、1日あたり「クラウドを使っていたら払っていたはずの金額」から「実際にかかる電気代」を引き、その差額(1日の節約額)で機材代を割る。差額が0円以下なら、答えは「一生かからない」になる。この計算には次の4つが要る(READMEに載っている式)。

  • 機材の価格
  • その機材が1秒間に生成できるトークン(単語の断片)の数
  • 機材の消費電力と、使う場所の電気料金
  • 同じモデルをクラウドで動かした場合の、トークンあたりの価格

このうち、機材の速度はモデルの重みを読み込む速さ、つまりメモリ帯域幅で決まる。帯域幅が広いほど、同じモデルでも1秒間に生成できるトークンの数は増える。

もう一つ、長い会話を続けると生成が遅くなる仕組みがある。AIは1個のトークンを作るたびに、それまでの会話の内容(KVキャッシュと呼ぶ)を毎回読み直している。会話が長くなるほど読み直す量が増え、速度が落ちる。Sunk Costはこの効果も計算に含めており、文脈の長さを変えると速度の見積もりが変わる。

ここまでの材料と、実際に公開されているデータを当てはめると、損益分岐点は何年になるのか。

計算すると何年かかるか

Sunk Costのデータには「実測」と「推定」の区別がある。速度をまだ誰も測っていない機種は、メモリ帯域幅から計算式で見積もった値になり、実際に測った機種はその値に置き換わる。ここでは実測データが揃っている組み合わせの一つ、Mac Studio(M3 Ultra・96GBメモリ構成)を使う。動かすモデルはDeepSeek-R1-Distill-Llama-70Bにする。

この機材は2026年8月25日、新型の発表と同じ日に販売終了になった。中古や特価であれば近い価格で手に入る。当時の価格は3,999ドル、負荷時の消費電力はAppleが公表する最大値270ワットだ(hardware.json)。

このモデルをこの機材で動かした場合の実測速度は16.45トークン/秒で、MacRumorsフォーラムの利用者による計測が出典になっている(フォーラムの投稿)。この数字は会話を始めた直後、KVキャッシュがまだ小さい状態での速度だ。長い会話を続けた場合はここより遅くなるが、今回はまず短いやり取りを重ねる使い方で計算する。クラウド版はOpenRouter経由で入力・出力とも100万トークンあたり0.80ドルとSunk Costが2026年9月3日に記録している。この価格は単一の提供元によるもので、Sunk Cost自身も変わりやすい値だと注記しており、実際の損益分岐点は価格の変動に応じて動く。

使い方は「コーディングの相談を1日50万トークン分」というSunk Cost自身が既定値に置く量にする。入力と出力の比率は「コーディングアシスタント」の設定(入力4:出力1)を使うと、出力は1日10万トークンになる。クラウド版に払うはずの金額は1日0.40ドルだ。ローカルで動かす電気代(電気料金は米国の平均である1kWhあたり17セントが既定値)は1日0.078ドルほどで、差額は1日0.32ドルだった。3,999ドルをこの金額で割ると、損益分岐点は約34年になる。

Mac Studio自体の実用年数を考えれば、この機材で元を取るのは現実的ではない。もっと速い機材を使えば、この年数は縮むのだろうか。

速いのに縮まらない理由

Sunk Costが対応する機材の中には、NVIDIAのDGX Sparkもある。実測83.43トークン/秒と、先のMac Studioの5倍速い(llama.cppのベンチマーク)。このDGX Sparkで、軽量モデルのgpt-oss-20bを動かした場合を、同じ使い方(1日50万トークン、コーディング用途)で計算してみる。

Mac Studio + DeepSeek-70BDGX Spark + gpt-oss-20b
機材価格3,999ドル4,699ドル
実測速度16.45トークン/秒83.43トークン/秒
クラウド版価格(入力/出力、100万トークンあたり)0.80ドル/0.80ドル0.02ドル/0.10ドル
1日の節約額0.32ドル0.0095ドル
損益分岐点約34年約1,354年

5倍速いDGX Sparkの方が、損益分岐点はむしろ40倍近く悪化した。理由は速度ではなく、gpt-oss-20bのクラウド版がもともと極端に安いことにある。1日にクラウドへ払うはずの金額は0.018ドルにとどまり、ローカルで浮く電気代を差し引いた節約額は1セントに満たない。損益分岐点を決めているのは、機材が1秒に何トークン作れるかではなく、クラウド版に払わずに済む金額の大きさだ

この結果は自分でも意外だった。着手する前は、DGX Sparkのように速い機材を選べば早く元が取れると考えていたからだ。実際に計算式へ数字を当てはめて、初めて損益分岐点を左右しているのはモデルの単価だと気づいた。

自分の数字で確かめる

ここまでの数字はいずれも米国の電気代(1kWhあたり17セント)を前提にしている。日本の電気料金に置き換えると、この結果は変わるのだろうか。日本の電気料金はこれより高いことが多いが、電気代が占める割合はもともと小さい。試しに電気代を倍近い1kWhあたり30セントにして計算し直すと、Mac Studioの例の損益分岐点は34年から42年ほどに伸びるにとどまり、大勢は変わらない。機材代の重さに比べると、電気代の違いは誤差の範囲に収まる。

Sunk Costのページでは、次のような項目をその場で自分の数字に置き換えられる。

  • 機材の種類・メモリ構成、または実際に支払った価格
  • 使い方(雑談、要約、コーディングなど)と、1日に使うトークンの量
  • 文脈の長さ、電気料金
  • まだ対応表にない自作PCやマルチGPU機は、メモリ容量・消費電力・実測した速度を直接入力

API価格が今後も年40%のペースで下がり続けると仮定する設定もあり、これを有効にすると損益分岐点はさらに遠のく。クラウド側の値下がりを織り込むほど、機材を買う側は不利になる計算だ。自分が実際に払っているAPI代と、検討している機材の価格をそのまま入れれば、今回の試算とは違う自分だけの答えが出せる。

まとめ

AI専用の機材で元が取れるかは、計算式とデータをすべて公開したツールで、自分の数字を使って確認できるようになった。今回計算した2つの例では、損益分岐点は34年から1,354年まで大きく開いた。差を生んだのはハードウェアの速さではなく、比較しているクラウドモデルの単価だった。機材の購入を検討しているなら、性能表よりも先に、自分が今使っているAPIの単価と使用量をこのツールに入れてみる方が判断の役に立つ。

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