Claude CodeやCodexに技術文書を手伝わせていると、「地味に効いてくる」「〜した瞬間に」のような、どこか見覚えのある言い回しが出てくることがある。これを自動で拾ってくれるtextlintのプリセットが、2026-09-14時点ではてなブックマークのテクノロジーで1位に入っている。紹介文には「Qiita7万記事を数えた実測分析が根拠」とある。では、このツールが指摘する語は、実際にどこまでその実測データに基づいているのか。辞書の中身を数えてみると、50語のうち32語だけが分析記事の本文で確認でき、残り18語はどこにも見当たらなかった。
このツールは何を指摘してくれるのか
textlint-rule-preset-ai-words-jaは、エンジニアのp1ass氏が作ったtextlintのプリセットだ。形態素解析で文章を単語に分け、内蔵の辞書に登録された語と一致したら指摘する。「効く」を登録しておけば、「効きます」「効かない」のような活用形もまとめて拾えるのが特徴になる。
作者本人が公開したブログには、実演例が載っている。Claude CodeとCodexを比較する技術記事を、作者自身がAIに書かせた。この例文(あくまで作者が用意した仮の例)にプリセットをかけると、「入口」「道具」「照合」「実測」「切り分ける」など30件の指摘が出た。「依存関係を照合する」「テストを実測する」のような言い回しを、決定論的に拾えていることになる。Claude CodeのPostToolUseフックに組み込む設定例も公開されている。ファイルを保存するたびにエージェント自身へ指摘を返し、書き直させる使い方も想定されている。
このプリセットのREADMEには、根拠として1件だけ参考文献が挙がっている。2026-09-11に公開された逆瀬川ちゃんの記事だ。Qiitaに投稿された約7万件の記事を2019年から2026年まで8年分数え、生成AI以後に増えた語彙を実測した分析で、本サイトでも前回取り上げている。READMEはこの記事について「この記事で増加が報告された語を辞書に取り込んでいます」とだけ書いている。この1文を読むと、辞書の語はすべてこの実測データに基づいていると思うのではないだろうか。自分もそう読んだ。
辞書の由来は、実はREADMEの1文より複雑だった
ところが、作者p1ass氏が別に書いた紹介記事の「辞書の作り方」という節を読むと、話はもう少し込み入っている。本人はこう説明している。
辞書の最初のバージョンは、私が普段AIの出力を読んでいて気になった単語を集めて作りました。9月のはじめにルールを作成し、次のツイートのように「効く」「走る」「見張る」「焼き込む」などを検出させていました
つまり辞書の出発点は、実測データではなく作者個人の「気になった単語」だった。本人もこれを「私の独断と偏見による辞書」と呼んでいる。ブログの記述を時系列で並べると、辞書は次の順で育っている。
- 9月上旬、作者が普段AIの出力を読んで気になった語を集め、最初のリストを作る(例: 効く・走る・見張る・焼き込む)
- その後も気になった語を自分の判断で足す(例: 部品・検査)
- 9月11日、逆瀬川ちゃんの記事が公開される
- その記事を参考に、一部の語を追加する(例: 実測・照合・入口・土台)
README側の「実測データが根拠」という説明は、この4番目の追加分にしか当てはまらない可能性がある。ここで気になるのは、「一部」がどれくらいの割合なのかだ。本人が名指ししているのは4語だけで、残り46語がどちらの由来かは書かれていない。
実際に数えると、50語のうち18語は記事のどこにもなかった
そこで、次の手順で実際に確かめてみた。
- npm registryで現行版(v1.2.0、2026-09-13公開)を確認し、辞書に載っている50語を取り出す
- 逆瀬川ちゃんの記事のHTMLからテキストを抜き出す
- 50語をひとつずつ、抜き出したテキストに文字列として登場するか機械的に照合する
結果は、32語が記事本文に見つかり、18語はどこにも見つからなかった。
帯の左側(64%)が、逆瀬川ちゃんの記事本文で確認できた32語にあたる。右側(36%)が、記事のどこを探しても見当たらなかった18語だ。「走る」「見張る」「焼く」「部品」「検査」は、まさに作者本人がブログで「最初のツイートの例」「その後足した語」として名指ししていた語と重なる。README1文の裏側に、由来の異なる2つのリストが混ざっていたことになる。
見つかった32語の側にも、内訳がある。「実測」「入口」「事故」など29語は、逆瀬川ちゃんの記事が具体的な増加率(%)まで示している語だ。残る「経路」だけは、%の表ではなく、対数オッズ比で比べた「2026年に多い語」という別の一覧に出てくる語だった。同じ「本文にある」でも、示し方の厳密さには差がある。
| 記事本文にあった語(例) | AI以前→2026年の増加率 |
|---|---|
| 実測 | 0.1%→7.2〜9.4% |
| 効く | 2.0%→22.3% |
| 入口 | 0.4%→6.8% |
| 事故 | 0.3%→6.8% |
| 経路 | %表記なし(対数オッズ比の一覧のみ) |
一方、辞書に載っているのに記事のどこにも出てこなかったのは、次の18語だった。走る・焼く・〜に落ちる・崩す・値を動かす・〜から引く・死活・漏れ・帰結・原初・無差別・正典・部品・検査・〜に配線する・太る・見張る・原料。これは50語のちょうど36%にあたる。
見つからなかった18語をどう受け止めるか
この結果は、textlintのプリセットが役に立たないという意味ではない。作者自身のブログに載っている実演例を見る限り、「入口」「道具」のような言い回しが技術文書の中で目につきやすいという感覚自体は、多くの書き手が共有できるものだろう。
ただし、README1文だけを読んで導入すると、指摘される語がすべて「Qiita7万記事の実測データに基づく」と誤解しかねない。実際には約4割弱が、作者個人が「独断と偏見」と呼ぶ最初のリストに由来している。これは悪いことではないが、指摘の性質が違う。29語は「多くの技術記事で実際に増えていた語」という統計的な裏付けがあり、18語は「1人のエンジニアがAIの出力を読んでいて気になった語」という経験則になる。どちらも文章を見直すきっかけにはなるが、「データが示す客観的なAIらしさ」と「ある人の主観的な違和感」は別物だ。
自分の書く分野で当てはまらない語があれば、設定ファイルのallowsオプションで個別に指摘から外せる。README自体も「検査」「部品」を例に挙げ、製造業や機械設計の文章ではこの2語が普通に使われることを認めている。奇しくもこの2語は、今回の照合で「記事本文にない18語」に含まれていた語でもある。
まとめ
- textlint-rule-preset-ai-words-jaは、形態素解析でAIっぽい語を機械的に指摘するツールで、2026-09-14時点ではてなブックマークで話題になっている
- READMEは「Qiitaの実測分析(逆瀬川ちゃんの記事)で増加が報告された語を取り込んでいる」とだけ紹介しているが、作者自身のブログでは、辞書はもともと本人の「独断と偏見」によるリストで、一部だけを実測分析から追加したと説明されている
- 現行版の辞書50語を実測分析の記事本文と照合すると、32語は本文にあり、18語はどこにも見当たらなかった。見当たらない18語には、作者本人が名指しした「最初のツイートの例」「その後足した語」が含まれる
- ツールを導入するときは、指摘されたすべての語が実測データに基づくわけではないと理解した上で、自分の分野に合わない語は
allowsで外すとよい
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