NBA 2K27の選手の肌が、急に実写っぽくなった。そんな話を見かけた人もいるはずだ。仕掛けているのは、NVIDIAが2026年9月4日(日本時間)に提供を始めた新機能「DLSS 5」だ。名前だけ見ると、荒い映像を滑らかに引き伸ばすこれまでのDLSSの延長に思える。だが中身はまったく別物だ。DLSS 5は、GPUが毎フレーム描いた絵の色と動きの情報だけを見て、肌や布の質感をAIがたった1回の計算で描き足す。3Dモデルの形は、GPUが最初に描いた通りに保たれる。
何が今までと違うのか、生成AIなのになぜリアルタイムで動くのか、実際に使うには何が要るのか。この順で確かめていく。
従来のDLSSと何が違うのか
GPUがゲーム画面を作る作業を「レンダリング」と呼ぶ。3Dモデルの形・素材・光源の情報から、1フレームぶんの画像を計算する処理だ。これまでのDLSS(超解像やフレーム生成)は、この計算を軽くする側の技術だった。荒い解像度で速く描いた絵を、AIが元の解像度まで引き伸ばす。前後のフレームから中間のコマを予測して増やす。
どちらも、深度情報や法線情報(いわゆるG-Buffer)を横目に見ながら、失われた画素を復元する仕組みだった。復元である以上、もとになる計算結果が無ければ、その先の質感までは作れない。GPUが鈍い光沢の生地として描いた服を、超解像でどれだけ拡大しても、光沢の材質そのものは変わらないのと同じことだ。
DLSS 5はここが違う。技術名は「3D-Guided Neural Rendering」で、やっていることは復元ではなく質感の描き足しだ。NVIDIA公式のGeForce Newsページは、色情報と動きベクトルを入力に、AIモデルがフォトリアルな照明と素材をシーンに加える機能だと説明している。荒い絵をきれいにするのではなく、GPUが描いた絵の上に、もう一段の質感を上乗せする。両者の違いを整理すると、次のようになる。
| 従来のDLSS(超解像・フレーム生成) | DLSS 5 | |
|---|---|---|
| 方式 | 復元(失われた画素を推測して埋める) | 生成(新しい質感を描き足す) |
| 変える対象 | 解像度・コマ数 | 陰影・質感(肌、布、光の当たり方) |
表からも分かるとおり、DLSS 5は画質を整える機能というより、画作りに加わる新しい工程に近い。では、その工程はどうやって行われているのか。
なぜ毎フレーム動くのか
ここで引っかかる人は多いはずだ。「画像生成AI」と聞くと、何もない状態から数十秒かけて1枚を仕上げる画像生成AIを思い浮かべる。ノイズだらけの画像を少しずつきれいにしていく「拡散モデル」は、普通は数百から数千回の計算を繰り返す。そんな重い処理が、なぜ1秒間に何十回も描き直すゲーム画面で動くのか。
GPUはまず、選手の3Dモデルをいつもどおりラスタライズで描く。ここまでは従来と同じ絵だ。DLSS 5が手を加えるのは、この先の1段階だけになる。
答えは、学習のときと本番のときで、見る情報の量を変えている点にある。PC Watchの西川善司氏がNVIDIAの技術資料をもとに分析した記事によると、DLSS 5の内部モデルは「One-Step Pixel-Space Diffusion Transformer」という名前を持つ。1回の推論だけで完成画像を出す拡散モデルだという(出典)。
学習の段階では、法線やアルベド、ライティング結果まで含む詳細なG-Buffer情報を”お手本”にして、写実的な陰影の付け方を覚え込む。ところが本番の推論では、色情報と動きの情報しか見ない。NVIDIA Researchの公式ページは、条件にするのは「現在のレンダリング済みフレーム、エンジンの動きベクトル、持ち越した時間方向の状態、芸術的な方向づけの値」だけだと説明している。
学習で覚えたことを、本番では最小限の手がかりから1回で引き出す。これが、生成AIでありながらリアルタイムに動く理由だ。GPUが最初に描いた選手の輪郭や動きはそのまま使われ、DLSS 5が触れるのは、その上に乗る質感の1層だけになる。自分は「画像生成AI」という呼び方を見て、てっきり数十秒がかりの処理を想像していた。学習と推論で見る情報量をここまで思い切って分けていると知って、重い処理をリアルタイムに押し込めた種明かしに納得した。
では、その1層は具体的に何を変え、何を変えないのか。
何を変え何を変えないのか
NVIDIA公式のGeForce Newsページは、DLSS 5が描き直す要素として、肌の下で光が透ける様子(サブサーフェス・スキャタリング)や髪のハイライトを挙げている。ほかに布の光沢、光の透過、接触面の影も対象になる。一方で、3Dモデルの形状は「geometry remains exactly as the artists designed(アーティストが設計した通りのまま)」とも明記している。キャラクターの輪郭や顔の作り、当たり判定に関わる形状そのものは変えないということだ。輪郭のギザギザ(ジャギー)を消す処理も対象外になる。
開発者側には調整の余地が残る。NVIDIA Developer Blogによると、複数のモデルをシーンごとに使い分けられる。質感の細かさを決める「Structure Intensity」と、照明全体の強さを決める「Tone Intensity」も強度調整できる。人物や布地など認識した要素ごとに効果をかけたり外したりする「セマンティックAIマスキング」も用意されている。プレイヤー自身が細かく設定をいじる機能ではなく、ゲームごとに開発者が仕上げた状態で届く。
ここまでで仕組みは分かった。次に気になるのは、自分の環境で動かせるかどうかだ。
何があれば使えるのか
DLSS 5が動くのは、GeForce RTX 50シリーズ(デスクトップ・ノートPC)に限られる。クラウドゲーミングのGeForce NOW(Ultimate会員)でも使える。NVIDIA公式ページが示す、NBA 2K27・Ultra Preset・レイトレーシング有効時のフレームレートは次のとおりだ。
| GPU | 解像度 | 実測FPS |
|---|---|---|
| GeForce RTX 5090 | 4K | 最大370FPS |
| GeForce RTX 5080 | 2560×1440 | 最大410FPS |
| GeForce RTX 5070 Ti | 2560×1440 | 最大350FPS |
| GeForce RTX 5070 | 2560×1440 | 最大260FPS |
自分がこの数字で意外だったのは、最も重いはずの4K・RTX 5090でも370FPSまで出ている点だ。学習と推論を分けてまで軽くした設計の効果が、ここに表れているように見える。ただしこれはNVIDIA自身が自社環境で測った数値で、DLSS 5を切った場合との比較や、他社製GPUでの検証は確認できていない。対応GPUを持っていない読者は、まずこの機能自体を体験できない点が分かれ目になる。
条件がそろった人は、次はどのゲームで試せるかが気になるはずだ。
今使えるゲームはどれか
2026-09-25時点で実際に対応しているゲームはNBA 2K27だけだ。NVIDIA公式プレスリリースは、今後対応が見込まれるタイトルとして十数本を挙げている。代表的なものは次のとおりだ。
- NBA 2K27(対応済み)
- Assassin’s Creed Shadows(Ubisoft)
- Hogwarts Legacy(Warner Bros. Games)
- Resident Evil Requiem(CAPCOM)
- Starfield(Bethesda)
名を連ねるパブリッシャーにはBethesda、CAPCOM、Ubisoftなど複数の大手が含まれる。1社の実験的な機能にとどまらず、業界的に広がっていく気配がある、というのが自分の見立てだ。ただし時期は「今後数週間から数ヶ月」とだけ示されていて、確定した日付は公表されていない。
対応GPUを持っていれば、今日からNBA 2K27で試せる。それ以外のタイトルは、対応の発表を待つ段階にある。
まとめ
DLSS 5は、GPUが毎フレーム描いた絵の形をそのままに、色と動きの情報だけから肌や布の質感を1回の推論で実写に近づける機能だ。学習のときに詳しい情報を覚え込み、本番では最小限の手がかりだけで質感を引き出す設計が、生成AIでありながらリアルタイムに動く理由になっている。対応はGeForce RTX 50シリーズに限られ、今使えるのはNBA 2K27だけだが、対応タイトルは今後広がっていく見通しだ。
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