手元のパソコンで大きめのAIモデルを動かそうとして、「メモリが足りません」と表示されて止まった経験がある人は多いはずだ。Appleは2026年10月28日、Mac Studio(M5 Ultra)に512GBのユニファイドメモリを積む構成を注文できるようにした(AppleChannel)。この構成自体は、Apple公式ニュースルームが8月の発表時点で「10月後半に加わる予定」と予告していたものだ。512GBというメモリ容量そのものより気になるのは、同じ512GBでも前の世代とどれだけ違うのかという点だろう。その答えは、Appleの研究チームが公開した数値の中にある。
注文できるようになったのは何か
Mac StudioのM5 Ultraモデルは949,800円(税込)から。ここに512GBのユニファイドメモリを選ぶと、価格は大きく上がる。AppleChannelの確認では、1TB SSD構成で397万3,800円、16TB SSD構成では532万3,800円に達する。本体の注文自体は8月から始まっていたが、512GBだけは出荷の目安が立たず選べない状態が続いていた。それが10月28日に解消された、というのが今回の変化だ。
価格だけを見ると「大容量メモリに高いお金を払う話」に見える。だがAppleの研究チームが公開した数値を見ると、変化の核心は容量そのものではない。同じ512GBに、前の世代よりずっと速くたどり着けるようになった点が大きい。それを理解するには、まず普通のパソコンがなぜ大きなAIモデルを苦手とするのかを押さえておく必要がある。
普通のPCでAIが動かない理由
一般的なゲーミングPCは、CPU用のメモリとは別に、グラフィックボードに16〜24GB程度のメモリ(VRAM)を積んでいる。AIモデルを動かす計算の大半はこのVRAMの上で行われるため、モデルの大きさがVRAMの容量を超えた時点で「メモリが足りません」と表示されて止まる。CPU側に空きメモリがあっても、そこへ計算を肩代わりさせると極端に遅くなるか、そもそも動かせない。
Appleのユニファイドメモリは、この区分そのものを無くしている。CPUとGPUが同じ512GBのメモリを直接共有するため、グラフィック用に別枠で確保された容量という制約が最初から存在しない。512GBのほぼ全体を、1つの巨大なAIモデルのために使える。パラメータ数128B(1,280億)クラスの大規模言語モデルを、分割せずに1台のメモリへそのまま乗せられるのは、この仕組みがあるからだ。
同じ512GBで何が変わったか
ここまでは「512GBあれば大きなモデルが乗る」という容量の話だった。だが512GBというメモリ容量自体は、実は前の世代のM3 Ultraにもあった。2026年3月に一度選べなくなり、M5 Ultraの登場に合わせて今回復活した構成にあたる。つまり今回の本当の変化は、容量ではなく速さの方にある。
Appleの機械学習研究チームが公開したMLX Distributed Inferenceのページに、M3 UltraとM5 Ultraを単体で動かした比較がある。指標はTTFT(Time To First Token)。入力を与えてから最初の1語が返ってくるまでの時間を指す。
| モデル | パラメータ数 | M3 Ultra | M5 Ultra |
|---|---|---|---|
| Mistral Medium 3.5 | 128B(Dense) | 95.9秒 | 24.6秒 |
| Qwen 3.8 | 27B(Dense) | 18.2秒 | 4.1秒 |
同じ512GBのメモリを積んだ機種同士で比べても、128Bモデルの応答開始までが95.9秒から24.6秒まで縮んでいる。Appleはこれを「最大4.6倍速い」とまとめている。容量が同じでも、世代が変わるとAIモデルに手が届くまでの待ち時間はこれだけ変わる。
ここで1つ注意しておきたい。文章が生成され続ける速度(デコード速度)の伸びは、これほど大きくない。デコード速度はメモリ帯域幅に比例し、M5 Ultraの1.2TB/sはM3 Ultraの819GB/sからおよそ1.6倍にとどまる。「待たされる時間」と「生成され続ける速さ」は別の指標で、今回大きく伸びたのは前者だと覚えておくとよい。
512GBでも足りないとき
512GBあれば何でも動くわけではない。同じ研究ページには、1台の512GBには収まらないモデルの測定結果も載っている。パラメータ総数816B(MoE方式、実際に働く部分は42B)の「Muse Spark Open」だ。
「クラスタ」と聞いて思い浮かべるのは、サーバールームに並んだラックの光景ではないだろうか。ところがAppleが示した方法は、Mac StudioをThunderboltケーブルでただつなぐだけだった。
Thunderbolt経由のRDMA通信を使い、Mac Studioを2台や4台つないで1つのモデルを分担して動かす仕組みだ。名前は「MLX Distributed Inference」という。4台をTensor並列でつないだ構成では、この816BモデルのTTFTが4.8秒まで縮んだという。個人が普段買う範囲を超えた構成だが、1台のデスクトップパソコンでは足りない規模のモデルにも、ケーブル1本でつなぐという選択肢が用意されていることになる。
向く人・向かない人
- 向く人: 128B級までの大規模言語モデルを、クラウドに頼らず手元だけで動かしたい開発者・研究者。1台で足りる規模なら、前世代より応答開始がはっきり速い
- 向かない人: 日常的な文章作成や画像編集が目的の人。ここまでのメモリ容量は、巨大なAIモデルをまるごとメモリに乗せる用途でなければ生かし切れない
- 価格: 1TB SSD構成で397万3,800円から(2026-10-29にAppleChannelが確認した価格)
- 購入経路: Apple Store直販のBTO(受注生産)構成のみ。Amazon.co.jpなど量販店の固定商品ページでは扱っていない。Appleは個別の型番を公表しておらず、チップとメモリ容量の組み合わせで構成を識別する
まとめ
Mac Studio(M5 Ultra)の512GBユニファイドメモリ構成は、2026年10月28日に注文できるようになった。容量自体は前世代のM3 Ultraにもあったが、Apple自身の測定では、同じ512GB同士でもTTFT(最初の応答までの時間)が最大4.6倍速くなっている。128B級のモデルなら1台で、それ以上の規模ならThunderboltで複数台つなぐという道筋も、研究チームの公開データから見えてきた。「メモリが足りません」で止まっていた作業の選択肢は、これで1つ増えたことになる。
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