図面はJw_cadで引けても、壁の配置が地震や風に耐えられる基準を満たしているかは、別の表に数字を書き写して確かめている。そんな工務店や設計事務所は少なくない。見積の数量拾いも、図面とは別に手作業で積み上げることが多い。
北海道の小さな工務店が、この手間をまとめて引き受けるソフトを無料で公開した。図面を1枚ずつ描く代わりに、建物の3Dモデルを1つ作ると、そこから図面や数量が生まれる。こうした設計方式を「BIM」と呼ぶ。このソフトの名前は「SumiCAD(墨カド)」という。壁量などの構造チェックや見積の数量まで、1つのモデルから一式そろう。
Jw_cadとどう違うのか、専門的な計算まで任せていいのか、気になるところから見ていきたい。
無料でどこまでできるのか
まず、SumiCADがどこまで無料なのかを確かめておきたい。
SumiCAD(墨カド)は木造住宅向けの設計ソフトだ。デスクトップアプリ本体はアカウント登録もライセンス認証も不要で、すべての機能とアップデートを無料で使える(公式サイト、2026年11月8日確認)。対応OSはWindows 10/11の64bitのみで、現在の最新版は0.7.3。公式サイトは早期アクセス版であることを明記し、「今後変わることがあり、不具合も残っています」と注記している(ダウンロードページ、同日確認)。
この無料の範囲に、ふだんJw_cadで描いている図面はどこまで収まるのか。
Jw_cadの手になじむか
Jw_cadを使い慣れた手に、SumiCADはどこまでなじむのか。
壁や柱の配置は910mmグリッドを使い、JWW・DXF・PDF形式での入出力にも対応している(建設ITブログの記事、2026年11月8日確認)。グリッドも交換形式もJw_cadの標準に近く、データのやり取りで詰まりにくい。
それだけではない。1つの3Dモデルを作ると、そこから平面図・立面図・断面図・A3図面シートが910mmグリッドのまま生成される(公式サイト)。Jw_cadのように図面ごとに線を引き直す必要がなく、1枚を直せば他の図面にも反映される。
上の図が示すとおり、SumiCADは建物の3Dモデル1つから、平面図・立面図・断面図を生成する(公式サイト)。それぞれ、真上・正面・縦の断面という異なる向きから見た投影にあたる。この「1つのモデルから複数の成果物が出る」という作り方が、このあと見る構造チェックや見積にもそのまま生きてくる。
構造チェックも任せられるのか
では、この1つのモデルは、図面を出すだけで終わるのか。
新築の木造住宅は、壁の配置が偏ると地震や強い風に弱くなるため、建築基準法は壁の量やバランスを計算して確認するよう定めている。これまでは、図面を引いたあとに、この壁量計算やバランスの確認を、別の表や手計算で行うのが普通だった。
SumiCADは、建築基準法で定められた構造の項目を、同じ3Dモデルから自動で計算する(公式サイト)。
- 壁量: 地震や風に耐えるために必要な壁の量
- 4分割法: 建物を4つの区画に分け、壁の配置バランスを確認する方法
- N値: 柱が引き抜かれないよう固定する金物の強さを決める数値
- 梁のサイズ、床の強さを示す床倍率、たわみ
基準を満たさない項目は赤く表示され、ワンクリックで修正できる。図面を引く作業と、建築士が法令に基づいて確認する作業が、同じモデルの中でつながっている。
確認申請の準備でも同じモデルを使う。敷地面積や建蔽率・容積率、高さ、換気・採光、浄化槽容量などを確認し、不足している項目を一覧で示す。見積は、モデルから拾った数量に、LIXILやYKK APなど10社のカタログ価格と自社の掛け率をかけ合わせ、Excelへ出力できる。SumiCADはこれらメーカーと提携関係にはないと明記しており、価格は参考値として扱う必要がある(公式サイト)。
ただし、これらの計算結果をそのまま使えるわけではない。公式サイトは、図面・構造チェック・確認申請図書・見積のいずれも、資格を持つ建築士が必ず確認し、記名するよう求めている(特定商取引法に基づく表記)。
ここまで専門的な機能を、無料で、しかも工務店自身が用意できたのはなぜなのか。
なぜ工務店自身が作れたのか
このソフトを作ったのは、ソフトウェア会社ではない。
大工がトップページで名乗る開発元
SumiCADの公式サイトは、トップページで自らこう名乗っている。「アカウント不要、ライセンス不要。北海道の現役大工がつくっています」「北海道で木造住宅を建てています。自分の仕事のためにSumiCADをつくり、無料で公開しています」(公式サイト、2026年11月8日確認)。特定商取引法に基づく表記でも、運営は「株式会社森の匠」、所在地は北海道虻田郡倶知安町と確認できる(同ページ)。木造住宅の設計・施工を手がける工務店が、そのまま設計ソフトの開発元になっている。
Claude CodeとRustで作り直した
建設ITブログ「ケン・プラッツ」の記事によると、開発したのは森の匠の技術者2人だという。2人は主にAnthropicの対話型コーディングツール「Claude Code」を使って開発を進めた。当初はオンライン向けのアプリとして作っていたが、途中から高速処理に適したプログラミング言語「Rust」で全面的に作り直したという(建設ITブログの記事)。
AIとの付き合い方は、開発の道具にとどまらない。SumiCAD自身もMCP(AIエージェントが外部のソフトを操作するための共通規格)に対応したコマンド操作のインターフェースを備える。AIへの指示で窓の高さを一括変更したり、屋根を自動で作成したりできるという(建設ITブログの記事)。他社の図面をAIで再現し、必要な部材の数量を拾わせることもできる。ただし再現したモデルが元の図面と食い違うことがあるため、人の確認が要るとも書かれている。
ここで自分が驚いたのは、開発チームの小ささと、機能が増えるペースの差だった。GitHubの公式リリースページを見ると、10月28日の0.6.7から11月8日の0.7.3まで、12日間で9回バージョンが上がっている。この間に、クラウド上での共同編集機能が加わった。他の設計ソフトとやり取りするための「IFC」形式での出力にも対応した(GitHub公式リリース、2026年11月8日確認)。どちらも実装に時間がかかりそうな機能で、工務店の内製ツールと聞いて想像する更新速度ではない。
これだけの速さで機能が増えている以上、どこまで安心して現場で使えるのかが気になる。
安心して使える段階か
現時点でSumiCADは、どこまで実務に使える段階にあるのか。
公式サイトが明記している、現時点の立ち位置は次の3点になる(ダウンロードページ、特定商取引法に基づく表記、2026年11月8日確認)。
- 0.6系・0.7系とも早期アクセス版で、仕様が変わる可能性と不具合が残っている点を明記している
- 対応OSはWindows 10/11の64bitのみで、Macには対応していない
- クラウド機能(共同編集、変更履歴、施主向けの3Dポータルなど)は今後、事務所あたり月額1,980円(税込2,178円、編集者1名を含む)になる。追加編集者は1名あたり月額500円(税込550円)で、閲覧者や施主の利用は無料のまま
この価格はクラウド機能の話で、デスクトップアプリ本体の無料という位置づけは変わらない。
まとめ
SumiCAD(墨カド)は、北海道の工務店が自分たちの仕事のために作った無料のBIMソフトだ。1つの3Dモデルから、図面・構造チェック・確認申請の準備・見積までをこなす。910mmグリッドやJWW形式を踏襲しているため、Jw_cadから移りやすい。ただし早期アクセス版であり、Windows専用で、計算結果は建築士の確認が欠かせない。クラウドの共同編集機能は今後有料になるが、デスクトップアプリ本体は無料のまま使い続けられる。
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