PhotoCraftで写真を編集していて、端に写り込んだ電線や通行人を自然に消したいと思ったことはないだろうか。Photoshopなら「生成塗りつぶし」が一発でやってくれる作業だ。だが無料のPhotoCraftには、今のところその機能がない。公式GitHubの説明文も、それを隠さずに認めている。
この弱点を、PhotoCraftの開発チームとは無関係の個人が埋めた。「OpenFill」という無料のプラグインを追加すると、画像を消す・埋める・広げる・生成するというPhotoshop的な作業ができるようになる。手元のGPUだけで動き、アカウント登録もサブスクリプションも必要ない。
PhotoCraftにAI機能がないのは本当か
PhotoCraftの公式READMEは、現状を率直に説明している。「まだ日常業務でPhotoshopの代わりにはならない」。そのうえで、足りない部分の筆頭に「AI/generative features(AI・生成系機能)」を挙げている(PhotoCraft公式README)。
自分が引っかかったのはここだ。弱点を目立たせずにぼかす書き方のほうが普通だと思っていた。開発チーム自身が「一番の弱点」とはっきり書いているのを見て、埋める方法があるなら記事にする価値があると考えた。
PhotoCraft自体はPSDファイルの互換性や印刷用のCMYK対応など、実務に近い機能から揃えている最中のソフトだ(詳しくは前回の記事で扱った)。レイヤーや調整レイヤーといった基本機能は揃っていても、画像を生成AIで塗りつぶしたり消したりする機能だけは、公式にはまだ用意されていない。
第三者がその機能を追加している
この空白を埋めているのが、Beckett Harriman氏が個人で開発・公開している「OpenFill」というプラグインだ。PhotoCraftの開発チーム(ArtCraft/storytold)とは別人によるオープンソースのプロジェクトになる。PhotoCraft本体には組み込まれておらず、入れるかどうかは利用者自身が選ぶ追加機能だ(OpenFill公式README)。
OpenFillを導入すると、PhotoCraftに次の4つの機能が加わる(OpenFill for PhotoCraft README)。
- Fill: 選択範囲をプロンプトか周囲の画像から埋める。候補を最大5つ出せる
- Remove: 選んだものを消し、背景を自然に続けて描く
- Expand: キャンバスを広げ、新しくできた端を描き足す
- Create: テキストから画像を生成し、新規画像やレイヤーとして追加する
ライセンスはApache-2.0で、商用利用も無料。この時点で次の疑問が浮かぶ。AIによる画像生成は普通、クラウドのサーバーで処理するものではなかったか。課金や画像のアップロードが必要になるのではないか、という不安だ。
処理はどこで行われるのか
結論から言うと、OpenFillの画像生成はすべて利用者自身のGPU上で行われる。裏側では「ComfyUI」という画像生成の処理を組み立てるソフトが動く。これもPhotoCraftを起動している同じパソコンの中で立ち上がり、終了すると一緒に止まる(OpenFill for PhotoCraft README)。
ComfyUIは127.0.0.1(自分のパソコン自身を指すアドレス)でしか応答しないため、他のパソコンから覗かれることはない。外部との通信が発生するのは次の場面に限られる。
| 場面 | 通信の中身 |
|---|---|
| モデル一覧を開いたとき | Hugging Face・Civitaiへの読み取り専用の検索(トークンは送らない) |
| モデルやComfyUI本体を取得するとき | 利用者が選んだファイルのダウンロードのみ |
| 導入前の環境チェック | パソコン内で完結し、外部へは送らない |
OpenFillの公式セキュリティ文書には「利用データ・分析・クラッシュレポートは一切収集しない」とある。アカウントの仕組み自体も持たないと明記されている(OpenFill公式docs/security.md)。通信が発生するのはモデルの検索とダウンロードのときだけで、編集中の画像そのものは生成処理の間、パソコンの外に一切出ない。
通信の心配が晴れたところで、次に気になるのは処理の重さだ。クラウドの大規模なサーバーが担っていた処理を、本当に手元のパソコンだけで済ませられるのだろうか。
モデルは0.2GBから27GBまで選べる
OpenFillは、1つの万能モデルで全部をこなすのではなく、用途とGPUの性能に応じて使うモデルを選ぶ設計になっている。公式READMEが挙げる代表的な組み合わせは次のとおりだ(OpenFill for PhotoCraft README)。
このグラフが示すのは、同じ「生成AI機能」の中にも、容量にして135倍の開きがあるモデル群が並んでいるということだ。最小のLaMaは「消す」ことに特化した軽量モデルで、作者の計測(RTX 4070 Laptop使用)では約5秒で処理が終わる。中間のDreamShaper 8 Inpaintingは約9秒かかる。最も高品質な設定(RealVisXL V5 + Fooocus inpaintパッチ)になると20〜45秒かかる(OpenFill for PhotoCraft README)。
容量と時間が増えるにつれて、モデルができることも変わる。LaMaは「写っているものを消して背景を続きとして描く」専用の小さなモデルだ。一方、DreamShaperやRealVisXL、さらに大きなFLUX.1 Fill(10〜27GB)は違う。プロンプトに応じて新しい絵柄をゼロから描き足せる汎用の画像生成モデルで、Fill・Expand・Createの3機能に共通して使われる。小さいモデルは「消す」専用、大きいモデルは「描き直す」力まで持つぶん、容量と時間が増える、という対応関係になっている。
どのモデルを選ぶかは、手元のGPUのメモリ(VRAM)で実質的に決まる。GPUはNVIDIA製、またはAMDのRadeon RX 7000シリーズ以降に対応する。SDXL系やFLUXのような大きなモデルには8GB以上のVRAMが目安になり、LaMaやSD 1.5系のモデルはそれより少ないVRAMでも動く(OpenFill公式README)。GPUを積んでいないパソコンでもCPUだけで動かせるが、公式READMEは「very slow(非常に遅い)」と明記している。
VRAMの大きい高性能なGPUを持つ人ほど選べるモデルの幅が広がる。持っていない人は、除去専用の軽量モデルから試せる。同じ無料プラグインが、性能の異なるパソコンの両方に対応している形だ。
自分のパソコンでも使えるのか
導入の流れは次のとおりだ(OpenFill for PhotoCraft README)。
- PhotoCraft本体をインストールする
- OpenFillのReleasesページから、対応するzipファイルをダウンロードして展開する
- 付属のインストーラー(Windowsは
.cmd、Linux/macOSはsh install.sh)を実行する - 「PhotoCraft with OpenFill」を起動し、ComfyUIのダウンロードまたは既存のComfyUIフォルダの指定を行う
- モデル管理画面から、使いたいモデル(まずはLaMaとDreamShaper 8 Inpaintingが既定)を取得する
対応OSはWindows 10/11、Linux、Apple SiliconのmacOSだ。対応するPhotoCraftのバージョンは0.12〜0.16になる(OpenFill公式README)。初回起動時にはComfyUI本体(約1.9GB、展開後6.7GB)のダウンロードも挟まるため、最初の立ち上げには相応の待ち時間と空き容量が必要だ。
ここで留保を1つ置いておきたい。OpenFillはPhotoCraftの公式プラグインではなく、個人開発者が無関係に公開しているソフトだ。導入する前に、自分でReleasesページとREADMEを確認してから進めることをすすめる。
もう1つ、モデルのライセンスにも注意がいる。最高品質帯のFLUX.1 Fill(dev)やMAT Places512は非商用ライセンスだ。仕事の案件で使うなら、LaMaやDreamShaper 8(CreativeML OpenRAIL-M)のような商用利用可能なモデルを選ぶ必要がある(OpenFill for PhotoCraft README)。AMD製GPUへの対応も新しく、作者自身が「ほぼ未テスト」としている。AMDのグラフィックボードを使っている人には、この点も関係してくる。
なお、同じOpenFillはPhotoCraftだけでなくGIMP 3.2向けにも公開されている。GIMPではFilters > OpenFillから、同じモデル群を使える。PhotoCraftを使っていない人にも、同じ仕組みの入口がある(OpenFill公式README)。
まとめ
PhotoCraftの公式READMEが「最大の弱点」と認める生成AI機能は、開発チームとは無関係のプラグインOpenFillによって、手元のGPUだけで補える状態になっている。処理はすべて自分のパソコン内で完結し、外部との通信はモデルの検索とダウンロードに限られる。
用意されているモデルは0.2GBの除去専用モデルから27GBの高品質モデルまで幅があり、GPUのVRAMに応じて選べる。導入にはPhotoCraft本体とは別にOpenFillのインストーラーとComfyUIの用意が必要で、商用利用ではモデルごとのライセンスを確認する手間も残る。それでも、Photoshopの生成塗りつぶしと同じ動きをする機能が、無料かつアカウント不要で手に入る選択肢ができたことに変わりはない。
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