棚に並んだ置物を1枚だけ撮った写真がある。これを、裏側まで含めてぐるぐる回して見られる3Dデータにしたい。これまでなら、専用の3Dスキャナーを使うか、何十枚もの写真を角度を変えて撮り直す「フォトグラメトリー」が必要だった。
開発会社Speridlabsが公開したオープンソースのAIツール「Idol」は、この手間を1枚の画像だけで済ませる。写っていない裏側まで推定し、3Dオブジェクトとして出力する。しかも無料で、家庭用のGPUでも1分かからずに生成が終わる。写っていない裏側を、Idolはどうやって作っているのか。そして実際、どれくらいの環境と速さがあれば使えるのか。公式ページとGitHub・Hugging Faceの資料から確かめた。
1枚の画像から何ができるのか
Idolに渡せる画像は、写真だけではない。公式ページによると、スマートフォンで撮った写真、CGのレンダリング画像、AIで生成した画像の3種類に対応する。どの入力でも、画像に写っていない側面を含めて回転して見られる3Dオブジェクトが出力される。
出力形式は「3D Gaussian Splatting(3DGS)」と呼ばれる形式で、PLYファイルとして保存される。細かさは生成時に調整でき、最も粗い設定では32,768個、最も細かい設定では1,048,576個の「ガウシアン」という単位で物体の形を表す。ファイルサイズはそれぞれ約0.4MBと約12.2MBになる(Speridlabs公式ページ、2026-11-01確認)。
この「ガウシアン」が何なのかが分かると、できあがった3Dデータで何ができて何ができないかが見えてくる。
普通の3Dモデルと何が違うのか
ふだんゲームや3Dプリントで扱う3Dモデルは、小さな面(ポリゴン)をつなぎ合わせて立体の表面を作る「ポリゴンメッシュ」という形式が多い。面同士が辺でつながっているので、形を編集したり、3Dプリンターで出力したりできる。
Idolが出力するガウシアンは、これとは別の原理で形を表す。1つ1つのガウシアンは、位置・大きさ・色・透明度を持った、柔らかくぼやけた小さな点だ。これを何十万個も空間に敷き詰め、重ね合わせることで物体の見た目を再現する。面をつなぐのではなく、無数の半透明な点で形をなぞる方式になる。
2つの形式を、できることで比べると次のようになる。
| ポリゴンメッシュ | Idolが出すガウシアン | |
|---|---|---|
| 形を表す単位 | 面(ポリゴン) | 色・透明度を持った点 |
| 形の編集 | できる | 想定されていない |
| 3Dプリント | できる | そのままではできない |
面を持たないという違いから、3Dプリントや、面を直接編集するタイプの3Dソフトには、そのままでは使えないことが分かる。見た目として画面の中で「見られる」3Dを素早く作る用途に向いた形式になる。
ここまでで、Idolが「何を作るか」は分かった。次に気になるのは、写っていない裏側を、どうやって当てずっぽうではなく作っているのかという仕組みだ。
裏側をどう推定しているのか
GitHubのREADMEによると、Idolの処理は次の順で進む。
- 画像から背景を取り除き、対象物だけを切り出す(BiRefNetというモデルが担当)
- 切り出した画像の特徴を読み取る(DINOv3というモデルが担当)
- 画像生成AIで使われるFLUX.2のVAE(画像を圧縮した表現に変換する部分)で、特徴をさらに扱いやすい形にする
- Diffusion Transformer(DiT)が、見えている部分の情報から、見えていない裏側も含めた3D空間全体のガウシアンを生成する
Diffusion Transformerは、文章から画像を作る一般的なAI画像生成と同じ発想の仕組みだ。画像生成AIは、ノイズだらけの画像から少しずつノイズを取り除いて1枚の絵を完成させる。Idolはこれと同じ要領で、ランダムな点の集合を少しずつ整え、入力画像と矛盾しない3D空間のガウシアンの集合に仕上げる。画像ではなく3Dの点群を、同じ考え方で生成している。
この一連の処理を担うモデルの合計パラメータ数は約1.80B(18億)になる。GitHub README・Hugging Faceモデルカードで、2026-11-01に確認した。内訳は次のとおりだ。
| 構成要素 | 役割 | パラメータ数 |
|---|---|---|
| DINOv3 ViT-H+/16 | 画像の特徴を読み取る | 840.6M |
| DiT(denoiser) | 3D空間のガウシアンを生成する | 370.6M |
| Gaussian decoder | ガウシアンの形式に出力する | 237.3M |
| BiRefNet | 背景を除去する | 220.7M |
| FLUX.2 VAE | 画像の表現を変換する | 84.1M |
| Octree decoder | 空間の構造を出力する | 50.8M |
なお公式ページは、この中核にあたる生成モデル(DiT)単体を指して「パラメータ数0.66B」と書いている。画像の特徴を読み取る部分まで含めた推論システム全体で見ると、約1.80Bになるという関係だ。
仕組みは分かった。これだけの処理を、自分のPCでも動かせるのだろうか。
手元の環境でどれくらい待つのか
GitHub READMEによると、推論システム全体のピークVRAM使用量は約7.2GBで、「コンシューマー向けGPUで動作する」とされている。8GB前後のGPUメモリを積んだゲーム用のグラフィックボードであれば動く計算になる。
生成にかかる時間は、使うGPUによって変わる。公式ページとGitHub READMEの両方に、262,144個のガウシアン・50ステップでの生成時間(複数回計測した中央値)が掲載されている。
業務用の計算資源がないと厳しいだろうと予想していたが、数字を見て拍子抜けした。最速のデータセンター向けGPU「B300」なら3.4秒で終わる。個人がゲーム用に使う「RTX4090」でも19.1秒、型落ちの「RTX3080」でも46.2秒だ。これらの数値はSperidlabs公式ページ・GitHub READMEで、2026-11-01に確認した。最速と最遅で13倍以上の差はあるが、どのGPUでも1分以内には生成が終わる。
速さだけでなく、出来上がりの質も確認できる。公式ページは、入力画像にない「新しい視点」から見たときの近さを示す指標も公開している。DINOv2・CLIPという2つの指標で、Idolは比較対象の既存モデル(TripoSplat・TRELLIS・LGM)を上回った。
| モデル | DINOv2 | CLIP | 生成時間(H100) |
|---|---|---|---|
| Idol | 0.781 | 0.885 | 6.8秒 |
| TRELLIS | 0.754 | 0.868 | 7.1秒 |
| TripoSplat | 0.743 | 0.868 | 9.9秒 |
| LGM | 0.575 | 0.784 | 1.1秒 |
(出典: Speridlabs公式ページ・GitHub README、2026-11-01確認。数値はIdol開発元による計測)
この表には出ていないが、入力画像そのものに近いかを示すPSNRという指標では、LGMが12.46でIdol(12.25)よりわずかに高い。ただし公式ページは、LGMの結果について「視覚的にぼけた結果になる」と注記している。1つの指標だけを見て「LGMの方が高精度」と判断すると、見た目の印象とは逆の結論になりかねない。
性能と速さは分かった。では、実際に自分の環境で試すには何が必要なのか。
自分で試すには何が必要か
試すだけなら、Hugging Face Spaceに用意されたデモで、画像をアップロードするだけで動かせる。手元の環境で本格的に動かす場合、必要なものは次のとおりだ(GitHub README、2026-11-01確認)。
- Python 3.10以上、PyTorch 2.5以上
- CUDA対応のNVIDIA GPU(ピークVRAM約7.2GB)
- GitHubリポジトリをクローンし、
pip install -e .を実行する環境 - Hugging Faceのアカウントと、
hf auth loginでのログイン
最後の1つには理由がある。Idolが使う画像エンコーダ(DINOv3)と、FLUX.2の一部(VAE)は「ゲート付き」のモデルだ。Hugging Face上で利用規約への同意が必要になる。初回は該当ページで同意してから実行する。
コードと学習済みモデルは、Apache License 2.0で公開されている。GitHub READMEとHugging Faceモデルカードの両方で、2026-11-01に確認した。改変や商用利用を妨げる制限のない、一般的なオープンソースライセンスだ。
まとめ
Idolは、1枚の画像から裏側まで推定した3D Gaussian Splattingのオブジェクトを作れるオープンソースのAIツールだ。コードと重みはApache 2.0ライセンスで無料公開されており、ピークVRAM約7.2GBという要件から家庭用GPUでも動く。生成時間はGPUによって3.4秒から46.2秒まで差があるが、どのGPUでも1分以内に終わり、新規視点での品質指標では比較対象の既存モデルを上回った。
できあがるデータは、ポリゴンメッシュとは別の「点の集まり」という形式になる。見た目として回して眺めたり、VRやゲームの素材として使ったりするのには向くが、3Dプリントやメッシュ編集にはそのまま使えない。この制約を踏まえたうえで、手元の写真を3Dにしてみる選択肢が1つ増えたことになる。
コメント
気づきや感想をどうぞ記事への補足や、読んで考えたことをお寄せください。個人情報や、他の人を傷つける内容の投稿はお控えください。
投稿にはGoogleログインが必要です。
Googleでログイン投稿にはGoogleアカウントの表示名が公開されます。メールアドレスは取得・公開しません。
コメントを読み込んでいます…