新作ゲームの発表映像を見ていて、キャラクターの顔つきや動きに「あれ、AIっぽいな」と気づいたことはないだろうか。2026年9月10日深夜、レベルファイブのオンライン発表会「LEVEL5 VISION 2026 II 夢」がまさにそれで話題になった。2日後の9月12日、代表取締役社長の日野晃博氏がX(旧Twitter)で説明・謝罪を出している。そこでは「発売作品の中身は人の手で作る」とはっきり書かれている一方、発表映像そのものにAIをどこまで使ったかは、声明を最後まで読んでも一つの範囲には定まらない。何が指摘され、社長は何を認め、発売される本編はどうなるのか。声明の原文を追って確かめる。
何がAIっぽいと言われたのか
発表会のどの映像に、どんな違和感があったのか。舞台は「LEVEL5 VISION 2026 II Dream」で、9月10日22時にYouTubeで配信された。当初は21時開始の予定だったが、機材トラブルで1時間遅れたという(ファミ通)。『妖怪ウォッチ2 覇道』や『イナズマイレブン 烈火の革命』など複数タイトルの新映像が公開されたのが、この回だ(レベルファイブ公式)。
指摘は2つのタイトルに集中した。Game*Sparkによれば、『妖怪ウォッチ2 覇道』のティザーPVには指摘があったという。前日の「Nintendo Direct 2026.9.9」版と比べて「キャラクターの顔といった細部が違っている」という声があったそうだ(Game*Spark)。AUTOMATONは『イナズマイレブン 烈火の革命』の新キャラクター「降星ナギ」の映像にも触れている。「不自然にボールが画面外から出現する様子や、特徴的な画風」から、AIらしさを感じ取ったユーザーが多かったようだと伝えている(AUTOMATON)。
ここで気をつけたいのは、これらが各メディアの報道だという点だ。日野氏本人が、この2つの映像を名指しして「ここにAIを使った」と個別に認めたわけではない。
しかも、どの映像が疑われたかという一覧自体、メディアによって違う。英ゲームメディアのPower Up Gamingは、また別の3本を挙げている。『レイトン教授と蒸気の新世界』『デカポリス』『ファンタジーライフi』が、AI生成の要素を疑われたタイトルだという(Power Up Gaming)。この3本は、日本語メディアが挙げた妖怪ウォッチ・イナズマイレブンとは重ならない。会社側が公に認めたのは、特定の映像名ではなく、あくまで次の声明の内容にとどまる。では日野社長自身は、何を認め、何を謝ったのか。
日野社長は何を認め、何を謝ったのか
映像へのAI使用について、日野氏はどこまで認めたのか。9月12日午後2時51分ごろ(日本時間)、Xで声明を投稿した。冒頭はこうだ。
今回、イベント内のでの映像についてAIを使用したため作品の内容に関しても不安の声があがってしまってるようですので、説明をさせていただきます。ひとえに発表会を派手にしたいという思いから最新のAIを使った実験も兼ねた処理を組み込んでみていました。これに関しては不快に思われた方がいたようですので、深くお詫び申し上げます。(日野晃博氏の投稿)
「不快に思われた方がいたようですので」という言い回しに、自分は一瞬引っかかった。誰がどう不快に思ったかを自分の言葉で書くのではなく、伝聞の形にして、謝る相手の輪郭をぼかしている。何が起きたかは認めつつ、反応の主語は外に置く書き方だ。
では、発表会の映像にAIを使ったことは認めるとして、発売されるゲーム本編はどうなるのか。読者が一番知りたいのはここのはずだ。
発売されるゲームの中身にもAIは使われるのか
発売されるゲーム本編にも、AIは使われるのか。声明の後半で、日野氏はここを明確に区別している。
弊社では、発売作品の魅力や個性に関わる部分、シナリオ、キャラクターデザイン、基礎設定などは全て人の手によってつくっています。AIによる効率化を狙っているのは、主に、人が作ったクリエイティブをデジタル化する部分、たとえば、原画を正確にポリゴンに起こすなどの部分です。発売されるゲームに、安易なAI出力データが入ってることはありませんので、ご安心ください。(同上)
「原画をポリゴンに起こす」というのは、絵師が描いた2Dの原画をもとに、ゲーム中で動かせる3Dモデルを作る工程を指す。ここは以前から人の手で時間のかかる作業で、日野氏の説明では、AIが効率化を狙っているのはこの変換の部分だという。
なぜそこまでしてAIを使うのか。声明は開発期間の短縮という狙いにも触れている。
AI効率化によって生まれた時間で、よりクリエイターが、創造の本質に時間がつかえるようになってきており(中略)現在の大型タイトル開発期間5年を2年にまで縮めるという計画の元、試行錯誤、奮闘している段階です。(同上)
単発の実験ではなく、開発期間を半分以下にする中期計画の一部だとしている。この2つの引用だけを読むと、答えははっきりして見える。発売作品の中身は人が作り、AIは原画を3D化する工程の効率化に限られる——そう読める。だが声明は、これで終わらない。
声明を読んでも、使った範囲は一つに定まらない
声明を読めば「どこにどれだけ使ったか」まで分かるのか。同じ声明の終わりのほうで、日野氏は次のようにも書いている。
ただ、今回はわかりやすく派手なプレゼンテーションをしたいという思いから、AIを多岐に使用していたことはいなめません。(同上)
自分はここで止まった。同じ声明の中に、範囲の広さが違う2つの言い方が並んでいるからだ。
- 「原画をポリゴンに起こすなどの部分」→ AIの使い道を1つの工程に絞る言い方
- 「AIを多岐に使用していたことはいなめません」→ 範囲の広さのほうを認める言い方
狭い説明と広い認め方が、1通の声明の中に同居している。
これは矛盾を暴くための指摘ではない。声明そのものが、発表映像でどこにどれだけAIを使ったかを数えて示す形にはなっていない、という事実の確認だ。「発売作品には安易なAI出力データを入れない」という結論は言い切られている。だが9月10日の映像のうち何割が、どの工程でAIを通ったのかは、声明のどこにも数字や範囲として出てこない。妖怪ウォッチ2覇道の顔の違いや、イナズマイレブンのボールの動きがこの「多岐」に含まれるのかも、同様に触れられていない。
声明を読めば線引きがはっきりする、と読者は期待していたはずだ。実際に声明が示したのは、「発売作品はやらない」という否定形の断定であって、「発表映像はここまでやった」という肯定形の範囲ではなかった。
まとめ
レベルファイブの日野晃博氏は、9月10日の発表会映像への生成AI使用を認め、9月12日に説明・謝罪の声明を出した。声明が言い切ったのは、発売されるゲームのシナリオ・キャラクターデザイン・基礎設定は人の手でつくり、安易なAI出力データを入れないという1点だけだ。一方で、発表映像にAIをどこまで、どの工程で使ったかは範囲として示されなかった。「原画をポリゴンに起こすなどの部分」という限定的な説明と、「AIを多岐に使用していた」という広い認め方が、同じ声明の中に並んだままになっている。
妖怪ウォッチ2覇道やイナズマイレブンの映像で指摘された具体的な違和感が、AI生成によるものかどうかも、現時点では会社側から個別に確認されていない。発売されるタイトルの実際の映像・グラフィックがどうなるかは、発売後にあらためて確認するしかない。企業の謝罪・説明文を読むときは、「やらない」と言い切っている部分と、範囲がぼかされたままの部分を分けて読むと、何が分かって何が分かっていないかを整理しやすい。
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