ClaudeやGPTの利用プランを見直していたら、聞き慣れない名前が急に目に飛び込んできた。「サカナAIの『Sakana Fugu』、AI性能再び世界最高水準」。2026年9月11日、サカナAIは新型AI「Fugu Ultra v2」を発表し、日本経済新聞などがこう報じた。日本発のAIが本当に世界のトップに立ったのなら、乗り換えを検討する理由になる。だが公式発表を読むと、Fuguは自社で一から訓練したモデルではなく、他社のAIを束ねて動かす仕組みだと分かる。しかも最新版は、比較で「上回った」はずの相手を、自分の仕組みの中では使っていない。何が起きているのか、一次情報から確かめる。
Fugu Ultra v2とは何か
サカナAIが「世界最高水準」の根拠として挙げたFuguは、自社で一から訓練した基盤モデルではない。GPT・Claude・Geminiなど複数のAIを、要求ごとに使い分けて回答を組み立てる仕組みだ。公式サイトはこの仕組みの中核を「Conductor(指揮者)」と呼ぶ。「強化学習によって自然言語での連携戦略を発見するよう訓練されている」とし、多様なAI群が単独のモデルより高い性能を出せるよう、エージェント間のやり取りとプロンプトを設計する役割だと説明する(Sakana Fugu公式)。
サカナAI自身は、この発想を絵本『スイミー』の小さな魚の群れになぞらえている。1匹1匹は非力でも、群れで大きな魚の形を作れば、単独では敵わない相手にも対抗できるという例えだ(ITmedia)。半年余りで、束ねる規模と方向性は次のように変わってきた(Sakana AI公式ブログ)。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 2026年4月 | ベータ版として登場。複数AIを束ねる方式そのものを試す段階 |
| 2026年6月 | 「Fugu Ultra」として一般提供開始。Fable 5・Mythos Previewは「一般提供前」を理由に未使用 |
| 2026年9月11日 | コスト重視の「Fugu Max」と性能重視の「Fugu Ultra v2」に分岐 |
では、その”束ねる相手”の中に、いま最強とされるAIは入っているのだろうか。
束ねる相手から、最新のClaudeとGPTが消えていた
公式ブログには、見過ごせない一文がある。「Fugu Ultra v2の学習データの締め切りは2026年8月28日。Fable 5、Fable 5.1、GPT-6-Astraは、Fugu-Ultra v2のモデルプールに含まれていない」(Sakana AI公式ブログ)。Fable 5とFable 5.1はAnthropicの、GPT-6 AstraはOpenAIの、いずれも現行の主力モデルにあたる。つまり最新版のFuguは、いま最も強いとされる他社モデルを自分の仕組みの中では使っていない。
6月の初代Fugu Ultra発表時は、Fable 5と当時のMythos Previewを含めない理由を「一般提供されていないため」と説明していた(Sakana AI公式、6月)。だが9月時点でFable 5とFable 5.1はすでに一般提供されているモデルであり、この理由はもう当てはまらない。9月のブログは、除外を「個々の独占的な最先端モデルに頼らずに最高水準の出力を実現するため」という利点として説明するにとどめ、なぜ具体的にこの3つを外したのかは書いていない(同上)。
では代わりに何を束ねているのか。公式ブログは、オープンウェイトモデルや特定用途向けモデルを中心とした、これまでで最大規模のプールを組んだと説明し、NVIDIAとの提携で加わった「Nemotron」ファミリーの名も挙げている(Sakana AI公式ブログ)。主力の独占モデルを外し、オープンなモデル群への切り替えを進めた形になる。
使わなくなったのに、なぜ「その相手に勝った」と言えるのか。比べている数字はどこから来たのか。
「48.3」対「29.5」、比べている数字の出どころ
サカナAIが根拠に挙げるのは「Chartography」というベンチマークだ。決算グラフやローソク足チャート、等高線図など、専門家が実務で読む図表をAIがどこまで正確に読み取れるかを試す(Surge AI公式)。運営するのは、AI評価用のデータセットを専門に作るSurge AIで、サカナAIとは別の第三者にあたる。
公式ブログはこのベンチマークで「Fugu Ultra v2は48.3点で、Opus 5の27.3点、Fable 5の29.5点を上回った」と発表した(Sakana AI公式ブログ)。数字だけ見れば、Fuguが2つの主力モデルを大きく引き離している。
3本の棒の長さの差が、そのままChartographyの得点差になる。濃い棒のFugu Ultra v2はサカナAI自身の発表値で、外部の独立記録とはまだ照合できていない。残る2本、Fable 5とOpus 5は後述のとおりSurge AIの公開リーダーボードの値と一致し、独立に確認できた数字だ(Sakana AI公式ブログ、Surge AI)。サカナAIが引用したこの2つの数字は、そのまま信じていいのだろうか。
比較できたのは、半分の数字だけだった
Surge AIはChartographyの結果を、モデルごとのリーダーボードとして自社サイトで公開している。実際に開いて確かめると、「Claude Opus 5 (Adaptive/Max)」の行に27.3%、「Claude Fable 5 (Adaptive/High)」の行に29.5%とある。サカナAIが公式ブログで引用した数字と、小数点まで完全に一致した。
自分はここでまず一安心した。相手側の数字は、サカナAIが作ったものではなく、Surge AIという第三者が独立に測って公開している値だったからだ。だが続けて同じリーダーボードのページ全体を検索しても、「Sakana」の文字列が一つも出てこないと分かり、拍子抜けした。Fugu Ultra v2の「48.3」は、Surge AIの公開リーダーボードのどこにも載っていない。念のため、AIモデルの性能を独自に測定して公開しているArtificial Analysisのモデル一覧も確認したが、こちらにもSakanaやFugu系のモデルは見当たらなかった(Artificial Analysis)。
つまり比較表の3つの数字のうち、独立した記録と照合できたのは相手側の2つだけで、勝ったはずのFugu自身の数字は同じ場所のどこにも見当たらなかった。
なお、この2つの比較値はそろった条件で選ばれてはいない。Surge AIのリーダーボードでは、Fable 5にはより高い「Adaptive/Max」設定の34.8%という記録もあるが、サカナAIが引用したのは一段低い「Adaptive/High」の29.5%だった。Opus 5側は最上位の「Adaptive/Max」を使っている。もっとも、Fable 5の最高値34.8%を当てはめても、Fuguの自己申告値48.3%は上回ったままなので、この選び方が「勝敗」自体を左右したわけではない(Surge AI)。
乗り換えを考える前に、何を確認すればいいか
「世界最高水準」という発表は、そのまま導入判断には使えない。確認すべき点は次の3つに整理できる。
- 自社で訓練したモデルなのか、複数のAIを束ねる仕組みなのか。Fuguは後者にあたり、束ねる相手の顔ぶれは版によって変わる
- 比較に使われたベンチマークが第三者運営で、比較対象だけでなく自社の数字も、その第三者の公開記録で照合できるか。Fugu Ultra v2は今回確認した範囲(Surge AI、Artificial Analysis)ではできなかった
- 価格と提供条件。Fugu Ultra v2は入力100万トークンあたり5ドル、出力30ドル(27万2千トークン超はそれぞれ10ドル・45ドル)で、EU/EEA地域では現時点で利用できないと公式に明記されている(Sakana AI公式ブログ)
まとめ
サカナAIの「Fugu Ultra v2」は、自社で訓練した単一モデルではなく、複数のAIを組み合わせて動かす仕組みだ。2026年9月11日発表の最新版は、Claude Fable 5・Fable 5.1・GPT-6 Astraという現行の主力モデルを自分の仕組みの中では使っていないと公式に明記されている。それでいて、ベンチマーク比較ではこの3つのうち2つを名指しで「上回った」としている。
比較に使われた相手側の数字は、第三者Surge AIの公開リーダーボードの実測値と一致し、確認できた。だがFugu自身の数字は、今回確認したSurge AIとArtificial Analysisのどちらにも見当たらなかった。「世界最高水準」という見出しだけで乗り換えを決める前に、比較に使われた数字がどこまで独立して確かめられるかを、まず発表元のページで見ておく価値がある。
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