ライブ会場で耳栓をしたら、歓声や照明の熱気は伝わってくるのに、好きな曲のギターの音だけ丸くこもって聞こえた。そんな経験で耳栓をやめてしまった人は多いはずだ。2026年9月11日、qdcとアユートが「音質を落とさず音圧を下げる」ライブ用耳栓「LINEAR MAGIC」を発表した。9月18日発売、価格は2,200円(税込)。答えを先に言うと、この発想自体は耳栓の世界でそれほど新しくない。ただし謳っている遮音値の高さは、同じ発想の既発売品と比べても際立っている。
発売日・価格・仕様の骨子
まず発表内容を確認しておく。アユートがqdcと共同企画したライブ用耳栓「LINEAR MAGIC」(型番6186)は、次の内容で発表されている。AV Watch アユート製品ページ
- 発売日: 2026年9月18日
- 想定小売価格: 2,200円(税込) PHILE WEB
- 対応シーン: コンサート会場、クラブ、スポーツイベント、工場の作業場など
- 素材: 医療グレードのシリコン(LSR)と独自の「メモリーフォーム音響フィルター」
- 本体サイズ: 幅15mm×高さ20mm(片側)、重量1g(片側)
- ノイズ低減量: 25〜30dB
qdcのステージモニター用カスタムイヤーモニター開発で培ったサウンド調整技術を応用し、「フラットな周波数特性によるリニアなノイズ低減」を実現するとしている。これらはすべてアユート・qdc側の発表であり、まだ発売前のため、第三者が実機で確かめた数値ではない。
なぜ普通の耳栓は「音がこもる」のか
発泡ウレタン製の一般的な耳栓は、高い音を強く抑え、低い音は比較的よく通す性質を持つ。声や高音の楽器がこもって聞こえるのに、足音やベースの低音は意外とはっきり聞こえる、という感覚を持ったことがあるとしたら、それはこの偏りのせいだ。音の高さ(周波数)ごとに下げ幅がバラバラだと、聞こえ方の全体的なバランスが崩れる。
これを避けるために、周波数ごとの下げ幅をできるだけ均等にそろえる設計がある。専門的には「フラットな減衰(平坦特性)」と呼ばれ、下げ幅の大きさは「dB(デシベル)」で表す。複数の周波数で測った値を1つの数字にまとめる規格を「SNR」(Single Number Rating、欧州の規格)と呼ぶことが多い。LINEAR MAGICが謳う「音質を落とさず音圧を下げる」は、このフラット減衰の考え方そのものになる。
フラット減衰の耳栓は、実はほかにも前からある
ここで一度立ち止まりたい。「独自の音響フィルター」という説明だけを読むと目新しい技術に見えるが、フラット減衰を謳う耳栓は、LINEAR MAGICが初めてではない。
- Etymotic「ER20XS」は、公式サイトで「4kHzまでは同一の周波数特性を保ち、聴覚スペクトラム全体で均等に20dBの音圧を低減する」と説明しているEtymotic
- Loop「Experience 2」は、公式サイトで「17dB(SNR)のノイズを減らし、音楽はクリアなまま安全な音量にする」と説明しているLoop
- Alpine「MusicSafe Pro」は、交換式のフィルター3種で16dB・19dB・22dB(SNR)とAmazonの商品タイトルに表記されているAmazon.com
自分は最初、この発表を見て「独自技術」という言葉に引っ張られかけたが、調べてみると同じ発想はすでに一つのジャンルとして存在していた。LINEAR MAGICの新しさは「フラット減衰」という考え方そのものではない。では、何が違うのか。
数値で比べると、LINEAR MAGICの遮音値は競合より高い
競合3製品の遮音値は、いずれも16〜22dBの範囲に収まる。これに対し、LINEAR MAGICが謳う25〜30dBは、この範囲より一段高い。
| 製品名 | 遮音値 | 方式・フィルター | 発売状況 |
|---|---|---|---|
| LINEAR MAGIC(qdc×アユート) | 25〜30dB | メモリーフォーム音響フィルター | 2026-09-18発売予定 |
| Alpine MusicSafe Pro(最大) | 22dB(SNR) | 交換式フィルター(ゴールド) | 発売中 |
| Etymotic ER20XS | 20dB | 均等減衰 | 発売中 |
| Loop Experience 2 | 17dB(SNR) | フラットフィルター | 発売中 |
図の横棒は、どれも0dBを起点に、各社が公式ページ・公式ストアで発表している数値の分だけ長さを伸ばしたもので、実測やこちらの検証結果ではない。LINEAR MAGICだけ25dBまでを塗りつぶし、25〜30dBの幅を輪郭線の延長で示した。並べて見ると、LINEAR MAGICの棒が最も長く、競合の上限であるAlpineの22dBより頭一つ抜けている。
ただし、この比較には注意点が1つある。AlpineとLoopは「SNR」という規格名を明記している。一方でLINEAR MAGICの25〜30dBについては、アユートの製品ページも、AV Watch・PHILE WEB・サンレコといった報道各社の記事も、どの規格・どの測定条件による数値なのかを書いていない。サンレコ同じ「dB」という単位で書かれていると、つい同じ物差しで測ったと思い込みそうになるが、その保証はどこにもない。数字だけを見て「LINEAR MAGICが一番遮音性能が高い」と順位付けするのは早い。
買う前に確認したいこと
サンレコの記事は、遮音値の高さを紹介する一方で「完全遮音ではなく音圧低減が目的」という注記を添えている。編集部の試聴についても「短時間の試聴に基づく印象」にすぎないという留保を明記している。サンレコ発売前の製品なので、実際に着けたときの装着感や、フラットな周波数特性が本当に保たれているかどうかは、今の時点では確認しようがない。
向く人・向かない人を整理すると、次のようになる。
- 向く人: ライブやフェス、スポーツ観戦で耳を守りたいが、音楽や実況もちゃんと聞き取りたい人
- 向かない人: 工事現場や飛行機のように、とにかく音を消したい人。公式も「完全遮音ではなく音圧低減が目的」とはっきり書いている
- 迷う人: 遮音値の高さだけで選びたい人。測定規格が分からない以上、発売後のレビューや実測記事を待ってから判断したほうがいい
まとめ
- LINEAR MAGIC(qdc×アユート、型番6186)は2026年9月18日発売、想定小売価格2,200円(税込)。音質を保ったまま音圧を下げる「フラット減衰」を謳う
- フラット減衰という発想自体は、Etymotic ER20XSやLoop Experience 2、Alpine MusicSafe Proなど既発売の耳栓にも前からあり、LINEAR MAGIC固有の発明ではない
- 数値で比べると、LINEAR MAGICの遮音値25〜30dBは、競合の上限であるAlpineの22dB(SNR)より高い
- ただしLINEAR MAGICの数値がどの規格・条件で測られたかはメーカー・報道のどちらも明記しておらず、SNRを明記する競合との単純比較はできない
- 発売前のため、実際の装着感や周波数特性が謳いどおりフラットかどうかの第三者検証はまだない。完全遮音を求める人には向かず、遮音値の高さで選びたい人は発売後のレビューを待ったほうがいい
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