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AIに人だと気づかれない柄シャツ、色の切り替わりで検出を崩す

ベルリンのアーティストが作った「Digital Camouflage」というシャツは、緑・ピンク・オレンジの派手な柄でYOLOという物体検出AIの判定を崩し、着た人を『人』として検出させなくする。$88で購入できる。

抽象的な幾何学模様がプリントされたシャツを着た人物の上半身。手をポケットに入れて立っている。

イメージ写真 記事の内容を撮影したものではありません。Photo by Tima Miroshnichenko on Pexels

この記事には Amazon アソシエイトのリンクを含みます。

駅の柱や商店街のアーケードに、見慣れない箱形のカメラと「AIが混雑状況を解析しています」といった掲示を見かけることが増えた。あの手のカメラに、自分が「人」だと気づかれない服があったらどうだろう。実際にある。ベルリン在住のアーティストSimon Weckertが作った「Digital Camouflage」というシャツだ。緑・ピンク・オレンジの派手な柄が、AIの物体検出モデルに「人」として検出されなくする効果を持つ。派手な柄がなぜ機械の目を欺けるのか、そしてどこまで頼れるのかを見ていく。

防犯カメラは人をどう見つけるか

スマホのカメラを人に向けると、顔や体の周りに四角い枠がふっと表示される。街なかのAI防犯カメラも仕組みは同じで、映像から人の輪郭を拾い上げ、「PERSON」といったラベルと、どれだけ確信を持ってそう判定したかを示す数値を、輪郭に沿った1つの四角い枠(検出枠)とセットで表示する。この仕組みは「物体検出」と呼ばれ、Digital CamouflageはYOLOという、誰でも試せる代表的な物体検出AIに対してテストされている。

このとき機械が見ているのは「人間そのもの」ではない。PetaPixelの取材によれば、Weckertは「AIシステムは複数層で構成され、人間そのものを学習していない。むしろ訓練画像における人間の統計的特性を学習した」と説明している。つまりAIは、大量の写真に共通して現れる色や輪郭のパターンを人の目印として拾っているにすぎない。この目印さえ崩せれば、人間の目には人がいるとはっきり分かる状況でも、機械には人として映らなくなる。では、その目印はどう崩せるのか。

なぜ派手な柄がAIの検出を崩せるのか

ここまでの説明だけだと、目印を崩すには森や茂みに紛れるような、目立たない迷彩色の方が有効に思える。自分も最初はそう予想していた。ところが実際にできあがったDigital Camouflageの柄は、その逆を行く。緑・ピンク・オレンジが入り乱れる、人間の目にはむしろ目立つ配色だ。

Weckertはこの柄を、パターンの候補をYOLOに見せては確信度を測り、確信度が崩れるまで調整を繰り返す「敵対的ループ」という手法で作った。人間が「目立たない色」を選ぶのではなく、AI自身の判定が崩れる色と形を、AIとのやり取りを通じて逆算して探し出す進め方になる。

通常時 PERSON 高確信度 着用時 認識せず

通常はこの図の左側のように、人物の輪郭に沿った1つの検出枠が「PERSON」の判定とともに表示される。PetaPixelの解説によると、Digital Camouflageの彩度の高い色の切り替わりは検出モデルの初期層を強く反応させる。重なった図形が身体の輪郭の連続性を破ることも合わさり、検出器は体の各部位を1人の人物として結びつけられなくなる。その結果が右側の図で、枠が分裂したりずれたりして、そもそも「人がいる」という判定自体が崩れる。

つまりこの柄は、AIが「これはひとつながりの人間の輪郭だ」と認識するための手がかりそのものを、色と形で狙って壊している。目立たなくするのではなく、AIにとっての輪郭のつながりを狙って断ち切る発想だ。

街なかの監視から逃れられるのか

ここまでの説明を読むと、Digital Camouflageを着れば街なかのAIカメラすべてから逃れられるように思えるかもしれない。だが、そう言い切れる根拠はない。

このプロジェクトは、ベルリンの地下鉄駅コットブッサー門で、ベルリン警察が2026年8月に始めた物体検出による監視カメラのパイロット導入に対応して作られた(404 Media、urdesignmag)。しかしGIGAZINEの報道によれば、ベルリンが実際に導入しているAI監視カメラがYOLOと同じ仕組みを使っているかどうかは公表されておらず、外部の人間が検証する手段もない。Weckert自身も、この不透明さこそが問題提起の核心だと位置づけている。

Weckert本人も効果を保証していない。GIGAZINEの報道によれば、Weckertは「警察から逃げるための道具ではない」「匿名性を保証するものでもない」と述べている。Laughing Squidの取材でも「Digital Camouflageはアート作品であり、セキュリティ製品ではない」と明言している。効果を大きく見せた方が売れそうな商品で、わざわざ効かない可能性を自分から言う作り手は珍しい。それだけ、この技術の効果がYOLOという特定のモデルに対して確認された範囲にとどまることの裏返しでもある。

向く人と向かない人を整理すると次のようになる。

  • 向く人: AI監視の不透明さに問題提起をしたい人。アート作品として関心がある人
  • 向く人: YOLO系の物体検出モデルの挙動を、実物のパターンで確かめてみたい人
  • 向かない人: 実際の防犯カメラから匿名性を確保する目的で探している人(作者自身が保証しないと明言している)
  • 向かない人: YOLO以外の検出方式に対する効果を期待する人(テストされた範囲を超える)

なお、Weckertは2020年にも、99台のスマートフォンを積んだワゴンを引いてベルリンの通りを歩いている。その行動だけでGoogleマップ上に実在しない渋滞を表示させ、作品として発表した。今回のDigital Camouflageも、テクノロジーが「何を見て、何を見ていないか」を作品にして問い直す、一貫した制作の延長線上にある。

まとめ

Digital Camouflageは、色の切り替わりと重なる図形でYOLOという物体検出AIの判定を崩し、着た人を「人」として検出させなくする、実在するシャツだ。彩度の高い色が検出モデルの初期層を強く反応させ、身体の輪郭の連続性を壊すことで、機械にとっての「ひとつながりの人間」という手がかりを断ち切る仕組みになっている。

ただし効果が確認されているのはYOLOに対してで、実際に街なかで使われている監視カメラが同じ方式かどうかは分かっていない。作者自身も匿名性を保証しないと明言している。$88で本人のサイトから購入できるこの服は、確実な対策としてではなく、AI監視の仕組みを問い直すための作品として見るのが実態に近い。

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