練習しているのに、勝率が変わらない。対戦ゲームでは、上達に合わせて対戦相手も強くなるため、勝率だけでは自分の成長が分からないことがある。
実力を推定して対戦相手や味方を決める仕組みを、SBMM(Skill-Based Matchmaking)という。同じ勝率でも、戦っている相手は前と違う可能性がある。 まず相手が変わると勝率がどう見えるかを考え、Apex LegendsとOverwatch 2の公式解説を読んでいく。ここで扱うのは2022〜2023年の開発者解説から分かる考え方で、現在の全モードの設定や計算式ではない。
上達すると、対戦する相手も強くなる
説明用に、練習を始めたころと、経験を積んだあとの2つの状態を考えてみる。
| 比べる場面 | 対戦相手 | 結果 |
|---|---|---|
| 練習を始めたころ | 初心者どうし | 10試合で5勝 |
| 経験を積んだあと | 以前より強い相手 | 10試合で5勝 |
どちらも勝率は50%だ。ただし、後者で以前より強い相手と同程度に戦えているなら、この2行は同じ内容を表していない。勝率が横ばいであることを理由に、上達していないと結論づけることはできない。これは仕組みを説明する仮の例で、10試合あれば実力が測れるという基準ではない。
問題は、この2つの状態の間で何が起きているかだ。公式解説をたどると、実力の推定と、相手の割り当てという2つの処理が順に働いている。
Respawnは、Apexの解説で実力を数値にする処理と、その数値を使って試合を組む処理を分けて説明している。Apex公式解説の「Skill Rating」「Matching」 前者が推定、後者が割り当てだ。同じ解説では、実力の数値に求められる性質として、実力の高い部隊が平均して実力の低い部隊に勝つと予測できることを挙げている。裏を返せば、実力の数値が近い相手どうしなら、どちらが勝つかは事前には決まらない組み合わせになる。
Blizzardの側では、この推定値をMMR(Matchmaking Rating)と呼んでいる。MMRは、ほかのプレイヤーに対する相対的な実力を表す内部の数値で、画面に表示するランクとは区別されている。そして、今いるMMR帯で勝ち続ければMMRは上がると説明している。Overwatch 2公式解説の「Internal matchmaking rating」
ここまでを、先ほどの2つの状態の間につなぐと、次の順で進む。
実力の推定と、相手の割り当ては別の工程で、上達はこの流れを一周して勝率へ戻ってくる。推定と割り当てを分ける説明はApexの「Skill Rating」「Matching」、勝ち続けると推定値が上がる説明はOverwatch 2の「Internal matchmaking rating」による。図は両社の説明に共通する部分をまとめたもので、実際の計算式ではない。
上達が推定値に反映されるほど、次に当たる相手も強くなる。勝率という数字は、この過程のあとに残る結果であって、上達の量そのものを表しているわけではない。
しかも、推定値を動かすのは自分の変化だけではない。Blizzardは、自分の実力が変わらなくてもMMRは動きうると書いている。周囲のプレイヤーが上達すれば、同じプレイのままでも相対的な位置は下がるからだ。相手の顔ぶれは、自分の上達と周囲の上達の両方で決まる。
ApexとOverwatch 2で違う「1勝」の数え方
相手が変わることに加えて、勝率にはもう一つの落とし穴がある。両作の公式解説には50%という数字が出てくるが、指している対象は同じではない。
| 公式解説の対象 | 何に勝つ確率・割合か | 読み取れること |
|---|---|---|
| Apexの2023年の実力評価の説明 | 実力が同程度の2部隊が遭遇したとき、その戦闘に勝つ確率 | 部隊どうしの戦闘が互角という説明 |
| Overwatch 2の2022年の新規プレイヤー調整 | 参加した試合で勝つ割合 | 適切な実力帯に近づいたかを見る目安 |
出典はApexの「THE FUTURE OF APEX MATCHMAKING」とOverwatch 2の「Setting up new players for success」。
差が生まれるのは、試合の構造が違うからだ。Overwatch 2は2つのチームが戦い、片方が勝って終わる。1試合の結果は勝ちか負けのどちらかなので、参加した試合のうち何回勝ったかを数えれば勝率になる。一方、Apexのようなバトルロイヤルでは、多数の部隊が同じ試合に参加し、その中で部隊どうしの遭遇が何度も起こる。遭遇のたびに勝ち負けがあり、そのうえで最後まで残った1部隊が優勝する。
つまりApexの解説にある50%は、試合の中で何度も起こる遭遇の1回についての数字だ。試合で優勝する確率と読み替えることはできない。
どのくらい違うのかは、簡単な計算で見当がつく。仮に全20部隊が同じ優勝確率を持ち、必ず1部隊だけが優勝するとすれば、1部隊の優勝確率は1÷20で5%になる。遭遇戦が互角、つまり50%であっても、優勝率は同じ数字にはならない。これは違いをつかむための仮の計算で、Apexで観測した勝率ではない。
この違いは、自分の記録を見るときにも効いてくる。作品をまたいで勝率を並べれば、数え方の違うものを比べることになる。同じ作品の中でも、遭遇戦に勝てた回数と試合に勝てた回数は別の数字だ。上達を確かめたいなら、まず自分が何を1勝と数えているかを揃えておきたい。
勝率から分かることには限りがある
ここまでの説明を踏まえると、次の疑問が出てくる。勝率50%を目安にすると書かれているなら、勝ったぶんだけ負ける試合を割り当てられているのではないか、という疑問だ。
Blizzardは2023年のFAQで、勝ち組・負け組用の待ち列や、個人の勝率を50%へ強制する仕組みを否定している。目標は、各試合で両チームに勝つ機会がある組み合わせを作ることだという。Overwatch 2公式FAQ これは開発元による説明で、こちらで内部処理を検証した結果ではない。
説明されているのは、試合を組む時点で両チームの実力を近づけるところまでで、その先の勝敗の順番ではない。コインを投げる例で言えば、表と裏の確率が同じでも、表が続いたあとに必ず裏が出るわけではない。実際の対戦には実力の変化や味方との組み合わせもあるため、コインと同じ独立した試行としては扱えないが、50%という数字が交互の勝敗を約束しない点は共通する。
組み合わせが近くても、その試合が接戦になるとも限らない。Blizzardは、均衡したチーム間でも一方的な試合が起こり得ると認め、原因の調査を課題に挙げていた。Overwatch 2の「Here’s what we’re currently seeing in ranked」 試合前の推定値が近いことと、試合中に競り合うことは、別の話として書かれている。
実力をどこまで近づけるかにも、条件がある。Respawnの解説では、今いる参加者ですぐ試合を作るか、より近い実力の相手を待つかを調整するとしている。Apexの「Matching」 待っている人が少ない時間帯なら、実力の差が開いた組み合わせになることもある。つまり、同じ仕組みでも、いつ遊ぶかによって相手の近さは変わりうる。
最初の疑問に戻ろう。勝率が変わらないのは、上達に合わせて対戦相手も入れ替わっているからかもしれない。逆に勝率が上がった場合も、モードやソロ・パーティの別が変わっていれば、練習の成果だけで説明するのは難しい。勝率は、その期間にその相手と、その数え方で戦った結果を表す数字であり、実力そのものを直接示す数字ではない。振り返るなら、勝敗の並びだけでなく、どんな相手と、どの条件で戦った期間なのかまで含めて見ることになる。
まとめ
- SBMMは実力を推定し、その推定値をもとに対戦相手を決める仕組み。上達すれば推定値も上がり、次はより強い相手と当たるため、勝率は5割前後へ戻りやすい。
- ApexとOverwatch 2の公式解説に出てくる50%は、遭遇した部隊との戦闘に勝つ確率と、参加した試合で勝つ割合で、指している対象が違う。
- 開発元は、勝ち組・負け組用の待ち列や個人の勝率を50%へ強制する仕組みを否定している。組み合わせが均衡していても、一方的な試合は起こり得る。
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