10月2日、茨城県つくば市のバス路線に「自動運転バス」と書かれた車両が加わったと報じられた。報道を読んで最初に浮かんだのは、運転席はもう空なのか、という疑問だった。結論から言うと、まだ空ではない。KDDIの発表によると、つくば市・筑波大学・関東鉄道・KDDI・KDDIスマートモビリティの5者がこの日始めたのは、決まった時刻表で誰でも使える本格サービスだ。運転席に乗務員が乗ったまま走る自動運転バスが、関東鉄道のバス路線「筑波大学循環」を走る。運賃は190円〜310円で、小児・障害者等は半額になる。
発表は、全国的なバス運転手の不足や地域公共交通の維持が課題となる中、自動運転技術を使って地域の足を保つ狙いがあると説明している。では、運転席に乗務員がいるこのバスは、これまでの路線バスと何が違うのか。
「自動運転バス」でも運転席に人がいる理由
このバスが使っているのは、自動ブレーキや車線維持支援の延長にあたる「レベル2」の自動運転だ。国土交通省の資料は、レベル2を「システムが縦方向及び横方向両方の車両運動制御のサブタスクを限定領域において実行する」段階と定義している。安全運転の監視・対応主体は、この定義では運転者のままだ。つまりアクセル・ブレーキとハンドル操作はシステムが担うが、周囲を見て最終的に責任を持つのは乗務員だということになる。
報道の見出しだけを見ると、無人運転が始まったように読めてしまう。しかしKDDIの発表には「レベル2自動運転にて運行を開始します」と明記されている。10月2日に変わったのは運転席の有無ではなく、これまで実証段階だった運行が、誰でも乗れる定期サービスになったことだ。では実証実験と本格運行は、具体的に何が違うのか。
実証との違いは便数と運賃
関東鉄道バス路線では2025年11月21日から2026年1月23日まで、レベル4実現に向けた実証走行がすでに行われていた。その案内を見ると、乗車は事前予約制で、便数は1日4便、運賃の案内もなかった。これに対して10月2日からの本格運行は、便数が1日6便に増え、190円〜310円という運賃が設定されている。今回の10月2日は、この実証を踏まえて「2026年度は実装フェーズ」に入り、設定した運行ダイヤに基づいて運行する段階になる。便数が増え、運賃という値付けが固まったことが、実証実験との一番の違いだ。
運行条件を表にまとめる。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 運行区間 | 関東鉄道バス「筑波大学循環」 |
| 運行日 | 平日(土曜・日曜・祝日・年末年始は運休) |
| 便数 | 1日6便 |
| 運賃 | 190円〜310円(小児・障害者等は半額) |
| 定員 | 15人(当面は着席のみ) |
| 最高速度 | 時速40km |
この表で目立つのは、1日6便という本数の少なさだ。実証段階からいきなり通常の路線バス並みの本数にはせず、ダイヤを固定したうえで段階的に増やしていく設計だとうかがえる。運休日が平日限定である点も、休日に出かけるつもりで待っても乗れないという意味で、見逃すと計画が狂う条件になる。
5者の役割分担も発表資料から確認できる。
- つくば市: 事業全体の企画、進捗管理、成果報告
- 筑波大学: 官民学連携の推進、実証フィールドの提供
- 関東鉄道: 自動運転車両の運行
- KDDI: 遠隔監視業務、通信提供
- KDDIスマートモビリティ: 事業全体の企画、進捗管理、成果測定
車両を実際に走らせているのは関東鉄道だ。この路線バス会社が新しく構えた拠点の場所に、自分は目を引かれた。
営業所はなぜ大学構内にあるのか
KDDIの発表は、関東鉄道が今回の運行のために「筑波大学車庫営業所」を新設したと伝えている。場所は筑波大学の構内だ。路線バス会社が国立大学の構内に自社の営業所を構える。この組み合わせを、普通そんなことができるのか、と自分は意外に思った。
国立大学法人が所有する土地を民間企業に貸す場合、通常は文部科学省の認可が要る。KDDIの発表が説明する特例の名称がそのことを裏づけている。つくば市のスーパーシティ型国家戦略特別区域計画のもとで、2025年11月28日にある特例措置が認定された。
- 通常: 国立大学法人が土地を第三者に貸すには、文部科学省の個別の認可が必要
- 今回の特例(特例措置番号837「国立大学法人が所有する土地等の貸付の認可の届出化」): 認可ではなく届出で済む。全国で初めての適用
認可から届出へと手続きが簡略化され、発表はこれを「国立大学法人による土地等貸付事業が全国で初めて認定」された事例だとしている。関東鉄道はこの特例を使って筑波大学と土地の賃貸借契約を結び、構内にバス営業所を新設した。
自分には、この届出化があったからこそ、文部科学省の個別審査を待たずに土地を使える状態になり、10月2日の本格運行にこの拠点を間に合わせられたように見える。地味な手続きの変更が、キャンパスの中に実在する車庫という目に見える形になっていた。この特例が全国初ということは、同じ枠組みを他の大学でもまだ使った例がないという意味でもある。つくばの自動運転バスが今後どこまで路線を広げるかは、運行自体の実績だけでなく、この土地利用の仕組みがどれだけ使いやすいかにも左右されそうだ。
2027年度の「レベル4」で何が変わるか
KDDIの発表は、2027年度のレベル4自動運転の実装を見据えていると明記している。国土交通省の定義では、レベル4は監視・対応の主体がシステムに移る段階だ。限定された条件下でシステムが全ての運転操作を担い、運転席を離れることもできるようになる。レベル2では運転者が主体だったのに対し、レベル4では責任の所在そのものが運転者からシステムへ移る。
ただし2026年度時点で確定しているのは、あくまでレベル2での運行だ。発表の文言は「2027年度のレベル4自動運転の実装を見据え」という見通しであり、正式な開始日は示されていない。10月2日に始まったのは、2025年度までの実証で積み上げた知見を使う「実装フェーズ」の第一歩という位置づけになる。
運行開始セレモニーで筑波大学の永田恭介学長は「実証の段階から、本当の意味での社会実装に移った」と述べている。実験のための試験走行ではなく、料金を払った乗客を乗せて毎日走る段階に入った、という区切りを強調した言葉だ。ただしこの「社会実装」は、まだレベル2の範囲にとどまっている。
まとめ
つくば市では10月2日、関東鉄道のバス路線「筑波大学循環」で自動運転バスの本格運行が始まった。運転席にはまだ乗務員が乗るレベル2の運行で、運賃は190円〜310円、1日6便、平日なら誰でも乗れる。本格運行に伴って新設された運行拠点「筑波大学車庫営業所」は、国立大学法人の土地貸付を認可から届出に簡略化する全国初の特例を使って、筑波大学の構内に作られた。この実装フェーズで積む運行実績が、2027年度に見据えるレベル4移行の足場になる。
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